191210 設備構想図のレビューと設備のレイアウト

今回は「設備構想図のレビューと設備のレイアウト」というテーマで話します。生産技術をしていて構想段階の失敗やレイアウトの失敗をたくさん見てきました。そんな経験から、私が考える失敗しないポイントをいくつか紹介します。

1. 設備構想図のレビュー(ライン全体のレイアウトが重要)

生産技術の仕事をしていると、設備の手配・導入をすることがあります。設備投資は大きなお金も動きます。設備導入後に大掛かりな変更もできません。設備構想段階での注意点をいくつか紹介します。ざっと上げるだけで以下のような項目になります。

  • 外形サイズと全体レイアウト
  • 部品の投入と排出(NG処理含む)
  • 各工程の詳細構造と期待精度
  • サイクルタイム
  • 機器の選定
  • 分解・組立のしやすさ・再現性

1-1.外形サイズと全体レイアウト

設備を製造現場に導入するときにはスペースの制約があります。新規工場で膨大なスペースがあるという場合を除いて、既存の設備の中にある限られたスペースに新規設備を配置しなくてはなりません。ライン1本単位でスペースがある場合も同様の考え方になります。1ラインとしての設置エリアは限られているので、設備の専有面積や人の移動、物の移動を考慮して問題ないのかどうか見極めなくてはなりません。
設備製作者はそういった工場事情など知りませんから、設備発注する生産技術者が責任をもってこの見極めをする必要があります。

※レイアウトについては後半で細かく説明していきます。

1-2.部品の投入と排出(NG処理含む)

次に物の流れです。製品の投入と排出方向がラインの流し方と一致しているかどうか、NG排出場所はどうなっているか、パーツフィーダなどの部品投入がある場合はアクセスしやすい場所にあるかどうかなどです。

投入や排出は装置端面から150㎜以内が目安です。200㎜を超えると、投入作業をする作業員はかなり手を伸ばして製品をセットしなくてはなりません。これでは作業性は悪くなります。

自動装置の場合はNG排出を通常運転と切り離す必要があります。NG発生率との兼ね合いにもよりますが、NG排出ごとに自動サイクルが停止していたのでは、稼働率が下がってしまいます。NG品が発生しても通常自動サイクルを止めないで、排出処理できる構造になっていないといけません。

またパーツフィーダなどのバルク部品の投入がある場合は、作業高さや供給方法もよく考えなくてはなりません。グリスや接着剤などのタンクを配置する場合は、交換作業するときの配管切替や作業スペースも確保しなくてはなりません。あまり装置レイアウトを詰めすぎると、こういった部分について後で後悔することになります。

1-3.各工程の詳細構造と期待精度

続いて、詳細構造です。例えば、組み立て装置で圧入機の場合であれば、プレス部分の構造や寸法測定の基準位置はどこか、製品のどの部分で位置決めをしているか、プレスの推力はどの程度か、装置の剛性は十分かどうかなどです。上下の芯出しをするための方法や、寸法をゼロリセットする方法やその寸法指示についても確認します。
検査装置の場合であれば、検査スペックに対して機器の分解能が妥当かどうか、位置決めや製品への傷対策、繰り返し精度などです。

1-4.サイクルタイム

設備構想が出てきたときに、各動作をイメージしながらサイクルタイムの想定を行います。要求のサイクルタイムに対して余裕があるのかどうかです。自動機の場合であれば、各装置の動作のタイミングチャートを作って、マシン動作タイムに余裕があることです。手動機であれば、人の投入・排出時間も含めてのサイクル動作が要求を満たしていることです。ポイントとして、多少の余裕を見ておかなくてはなりません。装置完成後に動作安定や精度の兼ね合いで、サイクルタイムが遅くなる要因はあるからです。

1-5.機器の選定

使用する機器が独特のものになっていないかどうかの確認です。PLCやタッチパネル、カメラや特殊な制御機器などは、他のラインや他の工程の設備とある程度メーカや型式を統一させておく必要があります。理由は運用面でのリスク低減です。
共通化することで予備品の在庫費用や管理工数は削減されます。また、運用面では操作方法が共通化できることで、不要な教育をなくすことができるうえに、問題発生時の復旧スピードは早くなります。

1-6.分解・組立のしやすさ・再現性

最後に、分解や組立をしやすさです。単体機の場合は問題になりませんが、複合機になるとユニット間の連結方法や位置決め方法、搬送方法、ユニット間の配線・配管の接続方法を考慮した設計にしておく必要があります。
「全部取引先に丸投げして設置してもらうので問題ない」という場合もあるかもしれませんが、エンジニアであれば装置の分解・組み立てくらいは自分でできるようになるべきです。配線や組み立てをすることで装置の理解も深まります。

1つ悪い事例を紹介します。自動コンベアで連結された3ユニットの自動機がありました。3ユニット間をコンベアが串刺しする構造になっていました。残念なことにこのコンベアの分解ができずに、3ユニットをある程度直列に配置した後、横からコンベアを差し込むというものでした。この3ユニットにアジャスタ(装置の足の部分)はあるのですが、ローラーがついておらず微調整が非常にやりにくい構造でした。毎回ハンドリフトで持ち上げて移動して3台の位置関係を出しながら、コンベアを串刺しして位置確認してということをやっていました。組み立て性を全く考慮していない悪い設備でした。

2.日本と海外の設備構想図について

余談ですが、国内・海外の取引先とやり取りをしてきて感じた違いを少し紹介します。

私が就職した2000年代後半は、2次元のCADが主流でした。製品設計部は3次元の作図ソフトを使用していましたが、これはかなり高額な年間ライセンス料を支払っていました。私が所属していた生産技術部は、処理能力の悪いパソコンで無料同然の作図ソフトを使用していました。もちろん2次元のソフトです。

2010年代になると、各国の設備メーカと取引をする機会が増えました。 中小企業であれ、設備の作図は3次元のソフトを使用していました。この頃から3次元のソフトが主流になりつつありました。海外の取引先は、たいてい3次元の図面を準備してきました。一方、当時取引があった日本の取引先は7社ほどありましたが、例外なく全社2次元の図面でした。

最終的には2次元図面になるのですが、概略構想段階では、3次元の図面の方が詳細構造を確認しやすく、確認ミスも減ります。2次元では3次元に比べてわかりにくく、人によっては構造を誤解する可能性もあります。このあたりを見ると、日本の製造業のレベルが海外に負けつつある理由も納得できます。なにかこう、技術トレンドに乗り切れずに古いやり方にしがみついて、イノベーションが起きないのです。

3.ラインレイアウトの準備について

目先の仕事に追われて設備設置直前までレイアウト検討ができていない事例をたくさん見てきました。全体感を把握したうえで個別の設備の配置やモノの流し方をどうするかを決めるのが本来のやり方ですが、そういうことを気にかける余裕がない人は、設備製作元が自由に設計した設備の絵をパズルのように並べていきます。順序が逆です。

3-1.設備発注前の準備(ラインレイアウトは必須)

・空きスペースの確保
新ラインの設置エリアはたいてい設置面積が決まっているので、その部分に合わせて生産ライン全体をうまく配置することになります。概略ラインレイアウトをもとに各設備の概略構造を決めていきます。設備ができても置く場所がないなどということはありえません。

・設備手配前にざっくりレイアウトを作る
1社にまとめて設備発注する場合は、そこまで大きく外れることはありませんが、分散発注する場合は、各社好き勝手に設計したバラバラのパズルを組み合わせていかなくてはなりません。そうではなくて、先に全体像をつかんでおいて、この設備はモノの投入がどこで、どの向きに製品が流れるということをこちらから指示しなくてはなりません。当たり前の話ですが、発注者側の方が多くの情報を持っているわけですから、抜け漏れなく必要な情報は展開して的確な指示をしなくてはなりません。

3-2.フルキャパシティーでのレイアウトを検討する

将来的な増設がある場合はフルキャパシティーでのレイアウトを最初に準備しておくべきです。例えば初年度は50万台の生産能力で、2年後に生産数量が増えて100万台になる場合は、100万台の設備レイアウトを先に描いておいて、そこから初年度に必要な分のみを初期レイアウトとして適応します。全体感が最初に見えていないと、増設するときにすでに設置した設備の移動が発生したり、場合によっては増設分の設備を置く場所がない、などという愚かな事態に陥ってしまいます。

また、設備によっては増設するときに既存の設備を動かして搬送スペースを確保しないといけない場合も出てきます。単体設備であればよいのですが、複合設備で分解・組み立てを伴うと、かなりの追加工数になります。たいてい、増設するタイミングでは、その設備を毎日生産で使用しているので、分解・再組み立てする時間を確保すること自体が困難だということです。
こうならないためにも、設備構想の段階で、すべての設備のサイズや製品の投入、排出位置についてよく検討します。

3-3.備品関係のレイアウト確認

レイアウトには製品を運搬する部品トレーや作業員、中間仕掛品の置き場や投入部材の置き場も図示しておきます。製品の流れを矢印で図示して、全体的なモノの流れと人の配置が分かるようにすると後で失敗するリスクが下がります。設備によっては付属部品(冷却チラーや油圧タンク、集塵機など)があるので、それらも漏らさずレイアウト上に図示します。以上を踏まえて人が作業するスペースが十分に確保されているのか、部品の供給するスペースは問題ないかなどよく確認します。

いったん設備・人・モノの配置が完了すると、次に治工具、作業机、マスター置き場、部材置き場などを配置します。生産ラインには設備以外のものも置かなくてはなりません。まず、消耗品や段取り替えをする治工具です。これはキャビネットの単位で必要になります。続いてマスターサンプルの置き場です。始業点検や不良品の解析をするためのオフラインでの作業机や計測器置き場も必要になります。最後は部材です。これはライン外に仮置きする場所が確保されていれば、必ずしもライン内に置く必要はありませんが、かなりスペースを取る可能性がありますので、多少は空きスペースを持たせておきます。以上のものをすべてレイアウト上に図示できれば、これでかなり完成度の高いレイアウトになります。


※関連書籍 生産技術職の教科書Ⅰ