191010 量産設備を現地化したときの苦労と大きなメリット

今回は「量産設備を現地化したときの苦労と大きなメリット」というテーマで話します。
日本の高い人件費や経済のグローバル化を背景に、日本で生産技術エンジニアをしている人は、海外工場とのやり取りを経験しているかと思います。日本で準備した量産設備を海外工場に発送するか、直接現地工場の近郊で設備を準備しているかのどちらかではないでしょうか。そこで今回は、量産設備現地化の苦労とメリットについて話をします。

設備現地化の目的

私が入社して5~6年目の頃に社内で新しい方針が出ました。それは量産設備を海外工場で準備するというものでした。それまでは日本で準備した量産設備を中国工場へ発送して立上を行うという仕事のやり方で、国内の取引先で製作した設備を日本の拠点に引き込んで、検証作業をしたのちに海外工場へ発送していました。

設備現地化による日程的なメリット

日本での検証作業や海外への輸送期間を考慮すると、短くても大体2ヶ月くらいは時間を要します。これは設備1台やサブアッセンブリーライン単位での話です。生産ライン1本での移管となると、さらに検証期間は長くなります。設備を現地で調達することで、この期間をなくして量産立ち上げまでのリードタイムを短縮したいという狙いがありました。

設備現地化による価格的なメリット

また、当時の中国設備は日本設備に比べて価格的な優位性もありました。
近年では中国国内の物価上昇により価格メリットはほとんどありませんが、増値税分(※中国輸入時に海外製品にかかる関税で本体価格の16%)はメリットがあります。

そんな背景もあり、私が中国工場に異動して中国設備メーカの窓口担当をすることになりました。その当時新製品の立ち上がりも多く、その対応を含めて私が現地で対応することになりました。
本社生産技術部と海外工場の関係は次のようなものでした。本社側が新製品の立ち上げ責任をもち、海外工場は量産維持というものです。

量産設備を中国で準備することになると、本社生産技術部の仕事はなくなってしまいます。これも変な話なので、本社から人を出して中国設備メーカの面倒を見るというのが、当時の政治的な判断だったとみています。一般的にどこの会社でも、本社組織は量産工場に仕事を押し付ける傾向があります。私個人はそんな細かい事情は気にせず、どこに所属していても仕事をこなすだけでした。

量産設備現地化での初期段階の苦労

私と、中国工場で私のサポート役の1名が周辺の取引先を相手に設備仕様・構想・設備立ち合いなどを対応しました。最初のうちは設備設計だけでも何度も何度も修正をかけるような状態でした。通訳係はいたものの、言葉の壁もありイライラする毎日でした。

やっと設備が形になったかと思うと、制御の部分や位置決め方法などが違って、ここでも何度も修正作業が入りました。日本で設備を手配する作業と比べて、3~4倍ほどの工数がかかりました。

中にはとんでもなく品質の低い設備を作る取引先もいました。発注までの新規取引先の評価は難しいもので、その仕事の品質を評価するのは出来上がった設備を見て判断するしかないのです。

当時、案件が多数あったこともあり、リスクの小さい設備を中心に発注したのですが、それでもうまくこなせない取引先は1社だけありました。とても専門家の仕事とは思えないような仕事品質でした。結局その会社に発注したのはその時の1件だけで、その後しばらくして倒産しました。
結局、その設備も初期品質がかなり悪かったので、2年もたたずに別の取引先で作り直すことになりました。

量産設備現地化の大きなメリット

こんな苦労の末に生み出した中国製の設備ですが、大きなメリットもありました。当初、本社の上層部が期待していたリードタイム短縮や価格メリットではありません。

一番大きなメリットは、中国工場の現地エンジニアの仕事がやりやすくなることでした。それまでは、彼らにとってはわけのわからない日本の設備ばかりでした。表示もすべて日本語です。取扱説明書も日本語です。設備の構成部品もすべて日本製です。付属機器のマニュアルを見ても中国語に対応していなければ、操作方法すらわかりません。

中国で製作した設備にも日本製の機器を使用していましたが、少なくとも取引先が近郊にいます。言葉も通じます。わからないことがあれば、すぐ自国言語でコミュニケーションすることができます。これは大きな効果でした。仕事がしやすくなると、仕事に対して興味を持つエンジニアが増え、さらにレベルアップするというポジティブな連鎖反応が生まれます。

最初は、そんな苦労の上に成し遂げた現地設備でしたが、それ以降は現地製設備が主流になりました。当時の取引先とも継続取引して、彼らの会社も拡大していきました。



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