200630 日本の生産技術職ではキャリア形成が困難な理由
今回は「日本の生産技術職ではキャリア形成が困難な理由」というテーマで話をします。個人の体験談も踏まえて日本の製造業界で働く若い技術者の参考になればと思います。よくよく考えると、構造的な問題を含んでいるのでキャリア形成の参考としてください。
生産技術職の主な仕事内容とマクロな視点で見た日本の製造業
別記事でも紹介している通り、生産技術者の仕事は生産ラインの導入・維持・改善です。いずれも高い技術力がないと務まりません。そして技術力を高めようと思えば、経験を積むしかないのです。
そこで一番のお勧めが、新規ラインの立ち上げ経験です。
工程設計、設備仕様準備、設備立ち上げ、帳票作成、顧客監査対応、サンプル生産、量産開始、増産(シフト追加や設備増設)の流れを経験できるからです。
一方でマクロな視点で見ると、日本国内で設備投資しようという会社はそれほど多くありません。海外と比較して日本の人件費は高いうえに、日本の解雇規制が重くのしかかってくるため、日本での設備投資機会は限られます。
日本での生産技術職のキャリア形成が困難な理由
会社の経営方針によりますが、日本国内で設備投資が少ないという点で日本の生産技術者は極めてキャリア形成に不利な状況にいるように思えます。
※これはマクロな視点なので、個別の例外はもちろんあります。
日本の生産技術部を大きく分けると次の2つのパターンに分類できます。
1つ目が、日本は本社機能のみで生産工場はすべて海外というパターンです。この場合は日本に所属しながら、定期的な出張で現場の仕事をするという仕事のやり方になります。
海外出張の場合、税務面の理由から最大でも180日までしか外国に滞在できません。つまり、技術者としての仕事は最大でも1年の半分しか従事できないことになります。
捉え方によっては、出張は成長機会になります。少ないリソース状態で成果を求められるからです。
2つ目が、日本に生産現場がある場合です。この場合は出張などする必要がなく、毎日生産現場で仕事をすることができます。ところが、こちらにもデメリットはあります。先述したように、日本国内に設備投資をする会社は少なく、投資があったとしても小規模のものになります。
その小規模の投資に対して、本社所属の技術者総動員でプロジェクトに関わります。つまり、各技術者の担当範囲が極めて小さくなります。上述した少数の海外出張の場合と比較すれば状況をイメージしやすいかと思います。
いずれの場合も一長一短です。
結論を述べると、日本では生産技術職のキャリアを形成しにくいということになります。
不可能ではないですが、余計に時間がかかるということです。
生産技術者としてのキャリア形成方法
そんな状況下で若い技術者が効果的にキャリア形成できる方法を考えてみました。 日本人技術者の場合、以下のいずれかを戦略的に採用しないとキャリア構築が厳しいと考えています。
- 国内設備投資が活発な会社の生産技術部で働く
- 海外工場に長期出張して経験を積む
- 海外に駐在する
- 海外に現地就職する
1.国内設備投資が活発な会社の生産技術部で働く
ほとんどないかもしれませんが、国内の設備投資が活発な会社であれば、成長機会に恵まれやりがいのある仕事に就ける可能性は増えます。
2.海外工場に長期出張して経験を積む
日本での生活ができなくなりますが、思い切って長期で出張して現場で仕事をするやり方です。私が以前勤めていた会社ではこのパターンでした。
3.海外に駐在する
お勧めしたいのが、この海外駐在です。生産現場がある拠点に駐在すると1年中現場で仕事ができます。重い責任を背負うことになりますが、技術案件以外にも現地での仕事経験から得られることがたくさんあります。 ただし、社内の方針、人選、プロジェクトのタイミングなどの外部要因が大きく作用するため実現可能性はかなり低くなります。
4.海外に現地就職する
4つ目が海外就職です。少し抵抗あるかもしれませんが、海外駐在に比べると確率は上がります。 中途半端に日本で生産技術をするよりは日系の会社に現地就職する方法もあります。デメリットとして給料は日本よりも下がります。言葉の問題や外国文化に理解がないと苦労することになります。
若い生産技術者に伝えたいこと
最後に若者向けにメッセージです。
若い技術者を見ていて環境の悪さを感じることがあります。大勢の中年社員に囲まれ、機会に恵まれない環境だからです。重鎮な大企業ではこの傾向が強いように感じます。「そんな仕事をしていても本人のためにはならないだろう」と思えるような仕事を任されている若手技術者をよく見かけます。
それならば、若手を積極採用している会社で若い世代に囲まれて仕事をするほうが本人にとって成長しやすいように思えます。
もし生産技術という仕事を選んだのであれば、上述した成長機会を意識して仕事に励んでもらいたいものです。上述したように日本国内での成長環境は限られています。最初は抵抗があるかもしれませんが、生産技術職の専門性を目指すのであれば、海外出張や駐在を視野に海外仕事に励んでみてください。
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