1.キャリア形成は個人で

会社に入社することが目的になっていて、入社後に思うような成長過程を描けない人が大勢います。入社は目的ではなく、個人と会社の成長が本来の目的です。長い人生でどんな人物像やキャリアを目指すべきかについてポイントを話しをしていきます。

会社は従業員のキャリア形成に責任を持ってくれない

どこの会社の人事部でも、建前上の人材育成の方針をもっています。人材を育てて強固な組織を作ることが人事部の本来の仕事で、そういう組織ができれば会社としての成果も上がります。ところが、実際問題として人事部ができることは研修プログラムを準備して講習会を開くことくらいです。一方で、各部署で要求される専門知識というのは人事部の領域とは異なります。それらの専門性は各部内で教育する以外に方法はありません。ところが、そうなってくると部内の仕事状況や教育方針次第で、部下の成長が決まります。忙しい会社になると、ほとんどがOJTだけです。

NETFLIXの最強人事戦略(著者:パティ・マッコード)」という本がありますが、 この本の中でNETFLIXは従業員のキャリア形成に責任を持たないと言い切っています。会社の使命は顧客を満足させることであって、従業員を教育することではないというのがマネージメント層の考えです。こういった考えを従業員にも伝えていて、定期的に転職エージェントに自分の市場価値を尋ねるように話をしています。厳しく聞こえるようですが、これは現実を正しく描写している話です。私の経験でも、従業員のキャリア形成を考えているという会社はありましたが、実際になにか特別なことをやっているかというと、そんなことはありませんでした。

自分の勤めている会社の教育方針について気になるようであれば、先輩社員のスキルを見て判断してみてください。人事部に問い合わせるよりも先輩社員を見ればすべて解決します。

成長とキャリア形成は個人次第

同じ環境で仕事をしていても、個人の考え方や行動によって成長速度は異なります。少しずつでも前進していればよいのですが、停滞したままの人が大勢います。上司がアドバイスをしても本人に意志がなければ、どうしようもありません。周りの人間も成長を促すサポートをすることは可能ですが、成長を決定する大きな要因は個人の努力です。この事情を会社側も理解しています。

たまに、本来の業務範疇である仕事案件について「教えてもらっていないからできない」と言う人がいます。入社1~2年目の人物が言うのならまだ理解できますが、入社して6~8年も経過している人物がそんなことを言うのは間違っています。「教えてもらっていないからできない」のではなく、「自分から学ぶ努力をしていないからできない」のです。

継続年数とともに常に仕事の質を上げていかなくてはなりません。そうでないと、自分の価値が相対的に下がるからです。自分で自分のキャリアを形成するつもりで仕事に励まなければならないのです。

市場価値が高まるキャリア形成を心がける

キャリア形成に関するアドバイスが2つあります。

1つ目がキャリア形成に長期間を要する職種でキャリアを形成するという点です。例えば、1人前になるのに1年かかる仕事と1人前になるのに10年かかる仕事であれば、後者を選ぶべきです。簡単な仕事というのは拡張性がありません。例えば、給与面で考えてみます。1人前になるのに1年かかる仕事であれば、1年後には給料は上がるかもしれません。ところが、3年、5年と働き続けても、その仕事を続ける限り給料の上昇は期待できません。1年でできるようになるということは、それをできる人は世の中に大勢いるからです。

一方、 1人前になるのに10年かかる仕事であれば、3年後、5年後とスキルの上昇に伴い市場価値が上がります。10年続ければ、それなりの給料アップが期待できます。市場にも同レベルの競合は少なく、あなたの価値は高まります。

2つ目が成長産業でキャリアを磨くということです。 事業自体が成長しないと、会社の売り上げや利益の増加が期待できません。要するに従業員の給料は上昇する見込みは少ないということです。衰退産業で働くと、いくら優秀な人物で仕事ができたとしても、売り上げ自体が少なく授業員の給料には反映されません。

2.個人は成長しなければならない

従業員は毎年給料が上がっていきます。自分の待遇がよくなって、ありがたいことなのですが、給料が上がる分だけ仕事の成果も広げなくてはなりません。何十年も同じことをするということは、相対的に自分の価値を下げる行為だからです。

増えるリストラ対象社員

メディアに報道されているように、大企業も早期退職者を募り社内体制の見直しを進めています。余裕があるときに体制を整えておかなくては、有事の際に全体が沈没してしまう可能性もあります。それでは手遅れです。会社がお荷物と考えているのは40代や50代の社員で、たいしたアウトプットも出せていない高給取りの層です。かつての賃金体系により徐々に賃金が上昇し、何十年もその環境に甘んじてきた世代です。

彼らに高い給料を払うくらいであれば、これから会社を背負う若手社員や実力のある社員の給料を上げた方がいいだろうという考えです。全く賛成です。問題を少し深堀して、なぜ彼らは必要とされなくなってしまったのでしょうか。上述の価値の議論に戻りますが、20代の時に習得したスキルにあぐらをかいて、何の向上心も持たずにできる仕事しかしない、そういう姿勢だからです。20代と40代では会社から期待される仕事は異なります。

ところが、彼らはその期待に見合う仕事ができていないのです。やっていることは以前と同じでも、環境が変われば、その価値は変わってきます。つまり、同じ仕事を同じように続けるということは、相対的に見れば徐々にその価値を下げているということになります。会社にとっても個人にとっても良い状況とは言えませんので、お互いのためにこの関係を断ち切るべきだと思います。

第2のキャリアを作る

同じ仕事を継続して徐々に自分の仕事の品質を上げながら、10年も続けるとその分野でエキスパートになっているはずです。徐々に仕事に物足りなさを感じてきます。こうなると次のステップに進む転機です。マネージャーになってグループを受け持つか、あるいは別の部署に異動して新しいことを始めるなどです。継続することも大切なことですが、10年後、20年後の自分の姿をイメージしてみてください。10年という期間をかければ、何か別のことに挑戦して成功する可能性は十分にあります。自分の仕事の幅を広げるためにも、自分の中で第2の柱(キャリア)を作るときなのです。

これは会社にもあてはまります。会社が何か1つの事業で成功したとします。ところが、事業内容が1つだけの場合、その事業がうまくいかなかったときに会社経営が危うくなります。こういうリスク分散対策として、余裕があるときに次の成長分野に進出して第2、第3の事業を検討します。1つの製品やサービスを市場に投入して終わりではなく、会社は常に変化して自社の強みに投資しています。

同じように、 個人レベルでも1つの分野をマスターした後は新しい分野に挑戦しましょう。社内や社外、異業種でも構わないと思います。こういう思想を持っている人が魅力的な人生を送ることになります。会社の経営者は、最初から経営者の人などほとんどいません。一般社員から何十年も働いて社内で昇格した人や外部から登用される人は、いずれもその過程で会社経営を学びながら、営業、企画、経理、人材育成、品質維持といった業務全般を経験しています。

1つの分野で職人になることも選択してよいと思いますが、40年という勤続期間を考えた時に、自分が本当にそれをやりたいのかどうか、10年後の自分の市場価値はどうなっているのか、その事業が10年後も存在しているのか、という視点で客観的に判断してみてください。

3.20代でやっておくべきこと

30代の私が社会人生活を振り返って感じることは、次の2つです。
1.専門性を磨く
2.信頼を築く

この2つを20代のころに意識して仕事に励んでみてください。

専門性を磨く

新卒で入社して、会社及び仕事に慣れることから社会人生活はスタートします。最初のうちは仕事もこなせず、人間関係にも苦労して仕事に関して大きなストレスを感じるはずです。環境の変化とはそういうものです。日本の場合、古い縦社会の文化もあるので余計に苦労を感じます。
この苦労を乗り越えるための1つの手段として仕事のスキルを身に付けることです。1人前の仕事をこなすようになれば、人間関係にも余裕が生まれます。仕事についても徐々に楽しめるようになります。

仕事ができるようになると、さらに仕事を効率よく進めるうえで自分に不足しているものが徐々に見えてきます。それらを克服することで、さらに仕事がやりやすくなります。一方、長年勤務している人でもスキルがない人は、自分で仕事を完結することができません。物事を自分の力で進捗できない人は仕事の効率がいつまでたっても上がりません。要するに、仕事ができない人になってしまうのです。この習慣が身に付いてしまうと、諦めのモードに入りなかなか抜け出すことができなくなってしまいます。

信頼を築く

あえて説明する必要はありませんが、仕事は信頼の上に成り立っています。社内外に問わず、依頼のあった案件を期待通りにこなしていくことが、小さな信頼を築き、大きな信頼へと変わります。時刻に遅れない、期限を守る、守れない場合は一報をする、勤務状況などです。信頼を得ることとイエスマンになることは違います。上司の意見を何でも受け入れることは、必ずしも信頼につながりません。自らの信念をもって、上司の考えに同意できない場合は自分の考えを伝えることで、周りの信頼を得ることができます。簡単に言えば、セルフマネージメントができる人材です。

この2つが必要な理由

なぜこの2つを挙げたか説明します。
この2つを20代のうちに磨いておくと、大きな機会が巡ってくる可能性が高くなるからです。スキルがあって信頼できる人物と評価されると、大きな仕事を優先的に割り当てられます。結果的に仕事の「実績」を作ることができます。「専門性」と「実績」を作ってしまえば、自分の自信にもなりますし、どこの会社からも欲しがられるような人材になることができます。勤め先の会社に依存しないで、会社を選ぶことができます。待遇も上がるでしょう。

少し具体例を挙げます。
私の場合、20代のうちから海外駐在することができました。プロジェクトリーダーの経験もあります。最初のうちはうまくいかないことが多いのですが、そういった新しい経験を少しずつ積み重ねることで、新しい世界が見えてきます。

4.30代でやっておくべきこと

30代は「決断」をする時期です。30代になれば、社内での自分の将来の見通しも立っているはずです。

少し大きなプロジェクトを担当して実績を残す

一般的に30代の働き盛りの社員は中間管理職で前線に立って活躍しています。個人でこなす仕事を卒業して、少し大きなプロジェクトを動かすような仕事を担当します。関係者や取引先と協調しながら、大きな仕事の全体マネージメントを経験する時期です。そういった経験を通して、少しずつ「実績」を残していきます。30代で実績を残し、優秀な人は40歳前後で部長職に就くというのが、モデルケースでしょうか。

キャリアプランを考える

30歳前後になれば仕事もこなせるようになってきます(※そうでない人はもっと仕事に励みましょう)。ちょうどこの時期が、自分が将来どうなりたいのか考える岐路にあると思います。上述したようにマネージメント層に出世していくのか、プレーヤーとしてキャリアを伸ばしていくのか、あるいは別のことに挑戦するかです。

私の事例を少し紹介します。
私は特に出世してマネージメントがやりたいわけではありませんでした。一日中、打ち合わせや上位方針の対応で時間を費やすよりは、現場でエンジニアの仕事をするほうがよかったのです。マネージメント職になると現場のことが徐々に見えなくなっていきます。他人の報告ばかりを集めることに集中して、自分で現物を確認しなくなります。現場で仕事をしないことで技術力も落ちていきます。私にはそんな予感がありました。もちろん、マネージャーになることで見える新しい世界もあります。大きな仕事をする上では、その役職があることが便利になります。これは人それぞれの判断です。

当時の私はちょうどプレイングマネージャーというポジションでしょうか。一応ちょっとした役職には就いていたものの、実務レベルの仕事はすべてほぼ自分でこなしていました。私個人は、もう少し現場の仕事をしたかったので現場の仕事を選ぶことにしました。

30代でのキャリア形成の失敗事例を考える

30代でバリバリ仕事をこなせる人材になっていない場合は、真剣に努力しないと悲惨な40代を迎えることになります。メディアで報道されているように、世間の大手企業は40代のリストラを始めています。大企業だから安泰などということは考えずに、自分個人の価値を高めて魅力的な人材にならなければなりません。

30代でのんびりした10年を過ごせば、40代になって待ち受けるハードルはさらに高くなります。「若い」ということは、それだけで価値を持ちます。30代であれば開いていた門でも、40代の人に対しては閉ざされています。時間がたつだけ選択肢は減っていくということです。もちろん、他人以上に努力をすれば40代からでも活躍できる可能性はあると思います。ただ、30代でできていなかった努力を40代から始めるということは、あまり現実的ではない気がします。

マクロな視点で考える

ここからは少しマクロな視点で考えていきます。
たとえば製造業の場合、日本全体で見ると衰退していきます。特定の会社や特定の事業領域で伸びる分野もあると思いますが、日本の製造業全体で考えると縮小していきます。この根拠は、人材不足、高い人件費、グローバルにおける日本企業の相対的地位低下、厳しいグローバル競争、アジア企業の躍進などです。今後伸びていく産業は、ソフトウェア関係の業界です。これは昨今の経済情勢をみれば明らかです。

では製造業の人材はどうすればいいのかというと、社内だけを見るのではなく、海外含めて業界動向や今後伸びる産業が何かといったことを考えなければなりません。30代であれば、一般的な勤続期間は30年も残っています。積み上げてきた自分の実績を振り返りながら、今後どういった分野に進んでいくかを「決断」するときです。

5.40歳までに決断すべき理由

厳しいようですが、同じ分野の仕事を継続していて40歳で結果を残せていない人は、別の仕事に就くべきです。
40歳時点ならば、残りの人生を考えてもまだ挽回可能だからです。

(日本社会の現状)
日本の会社は従業員の雇用が守られています。定年まで勤続するという考えを埋め込まれている人がほとんどです。
日本でしか働いたことがない人は、この状況を「普通」と考えていますが、他国に行くと普通ではありませんし、専門スキルがなくて転職している人も大勢います。
日本でも近いうちに状況は変わるとみていますが、移行期間も含めてあと5年くらいは現状の制度が続くと私個人は予想しています。

理由1)進むべき方向があっていない

勤続年数と仕事の成果は比例しません。長期間勤めていても、仕事ができない人は大勢います。世間の大企業のリストラや不祥事をみれば、容易に想像できるはずです。あるいは自社の中年社員の仕事ぶりを見ればわかると思います。

20代で就職して同じ仕事を約20年間やって、エキスパートレベルに到達できていないということは、進むべき分野と個人の適性があっていないということです。本人の意欲や社内の環境など、いろいろ理由はあると思いますが、結果的に理想的な状況を作り出せていないということは事実です。
※途中で別業界や別職種に転職した人は議論対象から除きます。

このまま60歳まで同じ仕事を継続しても本人の成長も期待できませんし、本人にとっても会社にとってもメリットはありません。本人のモチベーションも低いはずです。

理由2)人間関係がつらくなる

こういう状況が続くと職場での仕事も楽しくないはずです。自分より年齢の若い人たちの方が活躍しているなかで、自分の仕事に対する自信がどんどん小さくなっていきます。この状況が続くと、周りの社員も上司も期待しなくなります。

若手社員であれば、まだ改善の期待が持てます。
「若くて経験がないからできないだけ」という言い訳があるからです。

ところが、40歳を超えた社員に対しては、理由1)の通りです。
40歳社員に期待はできないものの、上司の立場としても40歳社員にプレッシャーをかけるしかありません。仕事をできないのに、プレッシャーをかけられ続けて、40歳社員の状況は厳しくなるだけです。

「上司からのプレッシャーに耐えること」=「仕事」と勘違いしている人がいますが、間違いです。不毛な人間関係に耐えることが「仕事」ではありません。「仕事」=「価値ある商品やサービスを提供すること」 です。

理由3)リストラ対象になる

最近の報道を見ればわかる通り、大企業で早期退職募集がかかっています。「追い出し部屋」という表現も流行ったように、勤続年数が長いからといって社内に居場所があるわけでもありません。

上司や同僚は変わります。結果の出ない組織を活性化して、収益性の期待できる事業にリソースを投下しています。付き合いが長いからと安心もできません。外部から来た人は、単純に能力と結果でしか人を判断しません。私は、それが本来あるべき姿だと思います。

解決策)異動、転職、副業や小さく起業、新しい方向へ進む準備を始める

ということで、40歳までに期待した成長ができていない人は、別の道を進むことを勧めます。
現状維持しつつ定年まで会社にしがみつくという考えは、解決策ではなく状況が悪化するだけです。

新しいことに挑戦するのであれば、若い方が適しています。体力的なことや精神的なことを考慮しても、高齢になるとハードルが上がるためです。そういう理由から、決断するなら40歳としています。

アドバイス1)
いきなり会社を辞めることはありません。徐々に準備を進めて、準備ができた時点で決断すればよいのです。

アドバイス2)
最初の1つが必ず成功すると考えないことです。成功するということはそう簡単ではありません。20年の会社勤めで成功できなかった人が、新しいことを始めてすぐ成功するなどということはありません。
数年という期間で物事を考えて、愚直に努力を継続することです。

アドバイス3)
可能であれば、社内で別の部署を探すことです。自分の興味がある事柄があれば、の話ですが。
これなら社外でいきなり挑戦するよりはハードルが下がります。また退職金や給料の面でもリスクは下がります。


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