200902 日本の製造業のホワイトカラー業務と将来の予想

今回は「日本の製造業のホワイトカラー業務と将来の予想」というテーマで話をします。私が所属していた製造業ではカイゼン、5S、省人化、生産性改善などたくさんの改善テーマがありました。国内の高い人件費や雇用規制もあり、直接人員を抑制しつつも高い生産性を維持するということはどこの会社でもテーマになっています。


間接人員が増えた現実を正しく理解する

1つ参考資料を紹介します。これは会社の直接人員と間接人員の比率を示したものです。直接人員とは生産ライン直結型の人員です。生産ラインの作業員や倉庫の実務担当者です。設備メンテナンスなどの現場連動のメンバーも直接人員にカウントします。

一方で間接人員とは、製造プロセスに直接関与しない人物です。生産技術部、品質部保証部、製品開発部、経理部、営業部、その他本社機能の人員です。


グラフを見ると直接人員が減少傾向で、間接人員が増加傾向です。
このデータをもとに「間接人員が増加して付加価値の高い仕事比率が増えた」と結論付ける人がいます。日本の状況を考えると、そうではないと私は考えています。 そもそも日本での製造業はもともと縮小傾向です。日本国内に大規模に投資をしようとする会社は極めてまれです。人件費や税率の安い海外に工場を作って生産しています。これは日本だけでなく、欧米でも同じです。昨今の激しいグローバル競争では人件費の高い国での生産は採算が合わないのです。仮に日本に生産ラインがあった場合でも、生産性を重視して海外工場に移設することもあります。

マクロな視点で見ると日本国内の直接人員は減少傾向にあるのです。会社によっては現場仕事の減少に伴い、直接人員だった人材は間接人員に配置転換します。欧米ではレイオフ(解雇)ですが、日本では解雇規制のため事業方針の変更に伴う人員整理が簡単ではありません。
※それでも大胆なリストラをしている場合も見られます。事業所自体をつぶしてしまうことです。これは「リストラ」という表現はされませんが、実質は「リストラ」です。特に家族がその地域で生活基盤を持っている場合などは勤務地を変更してまで、その会社で勤続しようという人はそう多くありません。

間接人員が増える他の要因

ほかにも間接人員が増える理由はあります。社内に優秀な人材がいない場合は、外部から採用します。近年はこの傾向が強い印象です。どこの優良企業でも外部人員を積極的に採用しています。内部で人材育成するよりも短期的には大きな効果があります。

採用により人材が増える一方で、外部へ出ていく人材はそう多くありません。とくに「使えない社員」ほど社内に居座る傾向があります。転職すれば、新しい職場では完全に実力勝負です。これまでの人脈や社内でのポジションをすべて捨てた状態で、仕事をこなせる人材はそう多くありません。本来はどこに行っても活躍できる状態が望ましいのですが、理想と現実は一致しないものです。

また、長期雇用に有利な退職金制度や解雇規制も転職への大きな抵抗になっていることも事実です。社内に居座ることで雇用が保証されているので、リスクを取って外部で挑戦しようなどとは思わないのです。会社内はまるで社会主義です。世間では厳しい競争にさらされているにもかかわらず、社内では全く競争環境になっていないのです。無能な社員でも無条件で在籍可能なのです。

40~50代の社員比率が多い会社では、この傾向が強いと考えた方がよいでしょう。事業が拡大している会社は年齢構成が若くなります。一方で採用活動が硬直した会社は高齢社員の割合が高くなります。結果として平均年齢も高くなります。

経営陣が優秀で財務基盤の強い会社であれば、「使えない社員」が多くても雇用を維持することは可能です。ところが、そうでない会社はリストラを実施します。メディアで報道されている通り、対象は「使えない中年社員」です。

以上のことから、「間接人員比率が多いことが付加価値が高い仕事が多い」ということではないということです。


長期的な予想(日本企業でホワイトカラー業務はなくなる?)

これはあくまで私の個人的な予想ですが、日本の会社は本社を海外に移転すると考えています。理由は 税務面でのメリット、人件費のメリット、解雇規制のメリット等です。

別記事で紹介している通り、日本の法人税、所得税は海外諸国と比べて非常に高いという事実があります。さらに解雇規制のため、人員整理も簡単ではありません(海外ではレイオフ可能)。業績が好調で、事業拡大を継続できて、常に優秀な人材のみを雇用できるのであれば日本に拠点を構えることに問題はないと思いますが、そんなことはそう簡単ではありません。

少し前に、LIXILという会社が本社をシンガポールに移転するという報道がありました。アメリカのIT企業も税率の低い国(たとえばアイルランドなど)に税務上の本社を構える会社も増えています。

「日本からの生産ラインを海外移管している」という話をしましたが、これは「直接人員」の海外移転です。この次には「間接人員」の海外移転が起きるのでは?と私は予想しています。 すなわち、本社自体を海外に移転するということです。

規制の強い日本ではなく、海外で事業をした方がやりやすいのです。こんなことをすると 世間や産業界から批判を浴びるのかもしれませんが、批判すべきは政府です。時代遅れのルールを現代に適応して、見せかけの雇用を守ったところで共倒れするだけです。仮に海外に本社を移転したとしても日本のルールが変われば、また日本に戻ってくればよいのです。

会社規模での日本脱出は稀かもしれませんが、個人レベルでの日本脱出はすでに起きています。青色ダイオードを開発した中村修二さんの事例は有名ですが、最近では年金積立管理運用独立行政法人(GPIF)にいた水野氏がテスラに入社しています。給与水準でみても、日本の大企業は優秀人材を優遇しているとは思えません。同じ仕事をやっても待遇が全く違う海外企業は存在します。(だからと言って、「日本企業が悪い」と主張しているではありません。解雇規制があるため、簡単に給料を上げることなどできないのです。)

「日本の雇用が失われるので、そんなことは認められない」という世論があるかもしれませんが、変なルールを変えない限りはいずれ会社も倒産します。社会主義経済が機能しなかったように、「社内の社会主義」も機能しません。すでに日本の製造業の衰退が過去20年間で証明しています。

したがって、日本企業の日本脱出は現実的に起こると考えています。



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