210321 変化は外から突然やってくる(テスラの強み)

今回は「変化は外から突然やってくる」というテーマで話をします。日本だけを見ていると外からやってくる変化に気づきにくいものです。自動車産業の話を例にとって、今起こっている変化を紹介します。

日本の雇用は安泰か?

日本は雇用が守られているため、多くの会社員(正社員)は自社は大丈夫と考えています。ほとんどの場合、事実に基づくわけでもなく、ただの都合の良い解釈です。自社の経営状況、財務状況、市場環境などを正しく理解しないで、短期的な自組織の仕事の状況から判断しているだけです。

経営陣は末端社員に財務状況など開示しませんし、危機をあおるような言動も控えます。結果的に判断材料を持っていない一般従業員は「問題なく経営できている」と錯覚します。

不安をあおるわけではないですが、自社の財務状況くらいは把握しておくべきだと考えています。会社経営はゲームと同じです。経営資金が枯渇するとゲームオーバーです。財務状況を見れば経営状況は分かります。

事例を挙げると、東芝やシャープは経営破綻して買収、分社化しています。ほかの大手企業も社員のリストラを実施しています。日産も社長交代の騒動で経営状況は急激に悪化しました。自分は大丈夫という「根拠のない安易な期待」は禁物なのです。

自動車業界でも見通しが立たない状況(テスラの強み)

日本の自動車産業は国内市場規模10~15 兆円(= 新車価格200~300 万円×販売台数500万台)の大きな産業です。自動車ビジネスは1車種の生産期間が5~10年と長く、製品ライフの短い家電業界と比べると安定した産業といわれています。ところが、その自動車産業ですら先々の見通しがつかない状況になってきています。

その理由の1つが自動運転やEVシフトです。アメリカのテスラという電気自動車の会社は世間から高い評価を獲得しています。数年前は自動車の量産化で苦労していて株価は低迷していましたが、いまは自動車業界で時価総額ナンバーワンになっています(創業後20年も経たない会社が世界1の時価総額を達成するのは驚くべきことです)。電気自動車と聞いて、エンジンがなくなって部品点数が減るという認識を持っている人は大勢いると思いますが、実際はそれ以上の大きな変化をもたらします。

ECUの数を削減して部品を一括管理しています。他社が部品ごとにECUを搭載して管理しているのと比べて制御技術が優れていて、部品点数削減によるコストメリットが期待できます。


また、自動車がコンピュータ化していて走行情報がすべてクラウドで管理されます。ソフトウェアがアップデートされ、定期的に自動車の機能が向上します。従来の日本の自動車ビジネスモデルは、保守でお金を儲ける方式になっています。ディーラーへ出向いて部品交換したり、車検手続きをしたりといった具合です。(2年ごとの車検は日本くらいです。この法律でどこかの利権団体が潤っているのだと思いますが、他国比較すると異常です。)

テスラ方式が一般化すると、これらの保守ビジネスはいずれなくなります。クラウド上で車の状態が管理できるので、わざわざユーザーが車をディーラーへもって行く必要がないのです。それらのデータを利用して自動車保険ビジネスやメンテナンスビジネスは大きく変わるはずです。

最後にテスラの電気自動車はオートパイロットという自動運転機能を内蔵しています。動画サイトで検索してもらえば実際の運転映像を確認できますが、混雑する市内でも安定した走行を実現できています。法規制の問題があるので、実用化までにはしばらく時間がかかりますが、かなり完成度の高い印象を持っています。

簡単にテスラ社の電気自動車の強みを紹介しました。ソフトウェア技術はこれまでの自動車業界にないため、既存の自動車会社は強みをもっていません。つまり土俵の違う部分で勝負しないといけなくなります。

国内保護の政策では対応できない残念な事実

では日本はどうすればよいのでしょうか?今までと同じやり方でよいのでしょうか?古い方式にしがみつこうとしても市場原理がそうさせません。
EVの価格が下がれば消費者はEVを購入します(実際に最近テスラが日本国内での販売価格を下げると販売数が伸びています)。海外のEVに輸入関税をかけて国内産業を守ろうとしても、産業自体はジリ貧になるだけです。日本の農業を見ればわかります。

マクロな視点でこういった大きな変化がすぐ近くまで来ている事実を理解していれば、仮に大手自動車メーカーに勤務していても、自分の会社の将来がどうなるかは想像可能です。時代のトレンドを全く理解しないで、
・製品設計の材料費が**%安くなりました
・工場の生産性が**%改善しました
・社内の事務作業の自動化で生産性が高まりました
という話は極めて短期的、局所的な視点しか持ち合わせていない行動に見えるのです。


かつて日本で携帯電話やテレビの開発をしていた会社は、その事業から撤退しています。開発担当していたエンジニアは仕事の転換を迫られたはずです。どこかの会社で同じような開発をしていることはあるので、職業としての需要自体がなくなるわけではありません。同じ会社にとどまるなら、社内異動で別の仕事を探すことになります。同じ仕事を継続したいのであれば、転職して別の会社に勤めるしかありません。同じようなことが今後増えていきます。

不安をあおるわけではないのですが、産業構造自体が大きく変わる場合はこういった変化が起こります。個人の努力ではどうにもならないことなので、そういった変化が起きる時に備えて準備をしておくしかありません。危機を想定している人物とそうでない人物では、有事の際の行動が大きく変わってきます。



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