190902 量産設備を標準化するという考え方とメリット

今回は設備の標準化について話をします。

1.設備の標準化とは

設備を標準化するということは、簡単に言えば同じような構造の設備を作るということです。
こうすることで設備設計にかかる工数も削減できます。また同じ機器を複数個使用することになりますので、 設備購入時の部品単価交渉力が生まれ結果的に設備購入費用の削減につながります。 運用面でも、保守部品が共通化され部品在庫の削減になります。 使用する側にとっても同じ構造の設備であれば、仮に新しい設備であっても使い方がすぐにイメージできているため、 導入時のハードルも下がります。

このように設備標準化という考えは、長期的な視点で考えると生産技術職の仕事においてたくさんのメリットがあります。どういった点に注意して進めていけばよいのか、鍵になるポイントについて考えていきます。

2.設備で使用する機器の標準化

まず設備を構成する部品から見ていきます。

設備にはPLC、タッチパネル、スイッチ、バルブ、シリンダ、アクチュエータ、センサーなどで構成されています。設備によってはカメラ、塗布ディスペンサー、計測器、油圧タンク、ロードセル、荷重モニタなどいろいろあると思います。 この中で優先的に標準化しないといけないものはPLC、タッチパネル、および専用の付属機器である計測器やカメラ、荷重モニタなどです。

PLCは日本国内ではK社、O社、M社、Y社などの製品があります。北米ではアレンブラッドリー社のPLCが、欧州ではシーメンス社PLCが広く流通しています。もちろん日本の設備製作会社では前述の日本製のPLCを一般的に使用します。このPLCは設備動作を制御するコントローラで、設備導入後にもメンテナンスや設備デバッグで何度も内部をモニタする必要があります。

エンジニアであれば簡単な操作は習得しておく必要があります。最近は高機能化していてPLCの操作だけでも完全にマスターするにはかなりの作業になります。I/Oの動作は最低限必要として、それ以外にもデータ通信、モータの制御、RS232C通信制御、イーサネット通信、CCリンク通信、コメントの言語切り替え、マクロ処理などです。これらの制御や操作性は各社違いますので、PLCが統一されていないと現場で運用する側は困ります。

通常、PLCプログラムを設定・編集・制御するときはPCをPLCと接続します。各社によって必要な通信ソフト、通信ケーブルは違いますし、ソフトの操作性も各社違います。このようにPLCが共通化できていないと、出来上がった設備が既存設備と異色なものになってしまい、現場サイドとしては何かトラブルが起きた時にリスクを抱えることになります。 タッチパネルもPLCと同じ理由で共通化が必要です。通常はPLCとの相性があるのでPLCと同一メーカーのタッチパネルを採用するのがほとんどです。

次に、カメラですが、10年前は作業員が目視確認していた外観検査工程も、今ではほとんどカメラに置き換わっています。自動化しやすく判定結果の履歴が残り、定量判断できることに加えてカメラ自体の値段が下がっていることが導入されている理由です。このカメラについてもソフト面で各社様々です。簡単な判定項目にしても複雑な演算処理をしている項目にしても、モノのばらつきやカメラの位置ずれなどが起きて判定エラーが発生した時は、微調整が必要になります。こちらもPLC同様に、単純なエッジ検出にはじまり、位置補正、フィルター処理、演算機能、外部出力、合否判定機能など多機能に及んでいます。PLCに比べると、ライン全体でのカメラの使用数量は少ないかもしれませんが、これもある程度統一感を持たせておかないと、後々現場で面倒を見る人への負荷が大きくなります。

最後にそれ以外の付属機器です。例えばプレス機であれば、ロードセル、荷重モニタ、油圧ユニットを統一する。検査機であれば計測機器を共通化する。溶接機であれば溶接電源を共通化する。

以上が新規ラインの設備導入するときの共通化の考え方です。特にPLCやカメラはハードを買って終わりという品物ではなく、ソフトの部分の対応がついて回りますので、よく検討しておく必要があります。

3.既存ラインとの共通化

消耗部品はもちろんですが、複数設備で使用している共通部品(例えばPLCやパネルなど)、特殊部品、長納期品も準備しておく必要があります。ある1台の設備の1部品が故障しただけでも生産ライン全体が止まってしまうからです。
簡単な加工品やバルブ、センサーなどは入手性が良いので、そこまで困ることはありませんが、モノによっては数週間や数ヶ月の単位で納期を要するものもあります。
これらは予備品として最低1つは手元に保管しておく必要があります。

続いて、既存ラインとの関係を考えます。どこの会社でも初めての工場で初めての生産ラインを導入する場合を除いて、類似の製品を生産している生産ラインがあります。導入時期にもよりますが、 この『古いライン』の機器構成や設備仕様を学ぶことから新しい設備の設備仕様検討を始めます。
すでに量産実績のある構造や機器を踏襲することで失敗するリスクを下げることができます。また スペアパーツの面でも、古いラインと同一品を使用すれば、スペアパーツは共用できます。新しいラインで立ち上がり初期の段階で何か機器が故障しても、既存ライン用に持っていたスペアパーツを使用して早期に復旧することができます。

4.製品設計の共通化

生産設備はある程度汎用性を持たせておくことが望まれますが、これは顧客の生産要求数量、設備のキャパシティー(生産能力)、どの程度自動化するかにより決まります。自動化を進めれば当然汎用性がなくなります。汎用性を持たせすぎると逆に自動化が難しくなります。私の提案する考え方は、単体ユニットを自動搬送で連結してユニット単位での増設や削減ができる構造です。こうすることで生産数量の増減に伴い、増設設備投資の遅延と不要になった時の他への転用が効くからです。

上記はあくまで設備側単独で考えた場合です。次に記述したいのは製品設計側での共通化です。設備の導入段階になると製品の構造はすでに固まっています。 この製品設計が実は設備仕様に大きく影響します。例えば、ある製品ではM4の六角穴付きボルト4本を使用して製品組付けをする構造だったとします。また別の機種ではM3のサラねじ3本をねじロック塗布しながら締め付けを行う構造だったとします。後者の場合は塗布機能が必要になります。ねじサイズも違いますので、極端な例ですがこのような機種を同一ラインで生産するようなことはありえません。

例えば、製品構造が類似している2機種の場合を考えます。機種が違うと、すべてを共通化することは本来不可能です。製品開発部門も従来機種からの改善や新規性を盛り込んできていますので、まったく同様構造の類似設計ということはありません。 全部は無理でも、例えば類似機種の20~30%だけでも共通設備で対応できるような製品設計にしておけば、2機種トータルで考えた時に部分的に設備の共通化が可能になります。

普通は 工場に生産ラインが2本のみということはありませんから、5本や10本のラインがあったとします。それらの生産設備全体で考えると、製品の部分的な共通化をすることで、工場内での全体最適化が可能になります。また製品構造を共通化することで、製品開発部も図面作成工数の短縮化、設計検証作業の省略化が可能になります。購買部門や部品サプライヤとしても既存部品と共通化することで、新規立ち上げ工数の削減とボリュームによる価格効果が得られます。もちろん生産設備側でも設備の共通化という点で、立ち上げ工数の削減、導入リスク削減、運用面でのメリットも期待できます。

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