191105 生産技術者が検討すべき設備自動化の統一思想

今回は「生産技術者が検討すべき設備自動化の統一思想」というテーマで話をします。
生産技術をしていると、生産性改善というのは常に大きな関心ごとです。普段の仕事を何気なくこなしていると、あまり気にしないかもしれませんが、少し大きな視点で見ると、各社戦略を練っています。日本の場合は人材不足の問題により、どの業界でも自動化・省人化を進めています。

以前勤めていた会社でも2010年代に入ってから量産設備の自動化を重点テーマにするようになりました。数年後に、ひとまず自動化という目的は達成できたのですが、今度は次の課題が見えるようになりました。今回はその時の話をします。

量産設備を自動化する目的とメリット

設備自動化をする目的は、主に次の2つです。

1.作業現場の人件費の削減
2.品質向上


設備自動化による直接人件費の削減

人件費については、ライン導入検討時点で原価や収益性を試算されます。どこの会社でも社内の経営状況や外部環境の変化により原価改善を行います。特に先進国では途上国と比較して人件費が5~10倍は違います。多少高い設備でも直接人員数を削減できるのであれば、採用するべきです。

また、途上国の場合でもその国のインフレ状況や経済成長率を考慮しておく必要があります。設備導入して数年後には、当初想定していたよりも人件費が高くなるということがあるためです。

設備自動化による品質リスクの低減

2つ目の品質については、「人の判断に依存しない」、「人の熟練に依存しない」、「人不足の影響を受けない(新人が担当しなくて済む)」といった観点です。日本と異なり、海外では作業員の定着率は高くありません。頻繁に作業員の入れ替わりがあると、製品品質にとってリスクとなるため、可能な限り直接作業員を減らしたいという狙いです。

設備自動化の現状と次のステップへの課題

アメリカと中国の貿易戦争が始まる前までは、産業機械メーカーやFA機器メーカーの業績が好調でした。これはどこの会社も自動化・効率化をテーマに活動しているためです。確かに、近年設備の自動化は進んでいます。ところが、自動化の思想というのはどこもバラバラです。これは会社間で統一感がないということではありません。社内の生産ラインで統一感がないということです。

例)あるラインはパレット・コンベア方式なのに、他のラインは多軸ロボットによる搬送
例)ある工程はA社製の多軸ロボットを使用しているのに、他の工程はB社の多軸ロボットを使用


こういった具合に、社内での自動化に統一感がありません。省人化・自動化という目的は達成できているのですが、その次のステップのことはあまり考慮されていないようです。これは部長職クラスの設備思想がないことが原因と思います。

次のステップとは、ライン全体、工場全体での設備の思想統一です。こうすることで得られるメリットは次のようなものです。

メンテナンス作業がやりやすくなる

設備メンテナンスも大変な作業です。設備が故障した時の復旧対応は高い専門知識がないと対応できません。ところが、生産技術エンジニアが統一感のない設備仕様で設備を導入すると、設備ごとにゼロから復旧方法を学ばなくてはなりません。これはメンテナンス部隊にとっての大きな負荷であり、設備故障時の大きなロスです。

予備品として確保する在庫のスペースと費用が圧縮できる

工場規模が大きくなると、この設備予備品の在庫だけでも1億円を超えます。
設備仕様を統一できれば、この予備品の在庫を共通化することができるので、在庫金額・スペースの圧縮につながります。

設備購入時の価格の交渉力が強くなる

同一仕様品を使えば、構成部品の価格交渉力が生まれます。例えば、多関節ロボットを購入する台数が増えれば、多関節ロボットの単価が下がります。次に、同一設計思想による設備設計の簡素化です。これにより設備設計費が下がります。

量産設備を自動化するデメリット

次に自動化のデメリットを紹介します。
量産設備を自動化するということはメリットだけではありませんので、そのリスクを正しく理解しておく必要があります。

量産ラインの汎用性が減る

自動化のデメリットは量産ラインの汎用性が減るということです。例えば、新製品を同じラインで流す場合には、量産ラインに沿った形で製品設計をしなくてはならなくなります。長期的な生産数の増減も考慮しておく必要があります。自動ラインになると、そう簡単に設備の増設や取り外しができません。将来的な設備の増設や特定設備をラインから外すことを十分に考慮しておく必要があります。

自動機故障による設備停止リスク

またメンテナンスのハードルも高くなります。単体機であればごまかして動かすことができたような場合でも、自動機ではそうもいきません。例えば、センサー1つ故障しただけでもライン全体が止まってしまいます。

製品製造に直接関与しない部分(例えば、搬送部分のボールねじやカップリングなど)が故障しただけでも、ラインは止まってしまいます。このあたりが自動化設備の悩ましいところです。
エンジニアは設備のより重要な部分である製品組立部位や製品検査部位については注意するのですが、それ以外の本質的な仕事をしていない搬送部分にはなかなか注意が向きません。

従って自動化設備の場合は保険として持っておかなくてはならないスペアパーツの在庫負担が増えます。こういう理由からも、先述の統一化思想が大切になってきます。

まとめ

理想とする自動化構想はライン全体、工場全体で考えて、個別のライン・工程に落としていきます。また、長期的な生産数量の増減や将来的な設備投資有無をよく検討しておく必要があります。

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