190904 生産技術エンジニアの海外駐在について

今回は生産技術エンジニアが海外工場に駐在するときの話をします。

随分前から多くの日本企業が海外に進出しています。
会社によっては、20代からでも海外工場に若手を派遣して鍛え上げるような会社もあります。海外駐在し異文化に触れることで実績を積むことができます。何より製造業では、日本でしか仕事をしたくないなどということは、この先あり得ません。

高い人件費、法人税、エネルギー問題、為替問題、人材不足など日本を取り巻く環境は熾烈です。海外で活躍して経験を積むという考えをもって、若いうちから海外へ出ていく方がよいでしょう。最初は抵抗があるかもしれませんが、結果的には若いうちにいろいろ経験しておくことが将来の自分の役に立つと思います。

【目次】

海外での生産技術職の仕事

生産技術エンジニアが海外工場に駐在するということは簡単に言えば、生産ラインのサポートです。 たいてい新しい製品や生産ラインの立ち上げと同時に赴任して、 生産ラインのサポートをするというのが、よくあるパターンです。 いきなり、生産ラインだけ海外工場に設置されても現地の人も困ります。 生産ラインを維持すること自体、技術力がないとできません。 そういう点で、その生産ラインのエキスパートというポジションで生産技術エンジニアが海外工場に駐在します。

その代り、 現場の問題(品質問題、設備問題)が起きた時の対応はすべて責任を負うことになります。 毎日の量産ラインで起こる問題処理はもちろん、処理できない問題を解決してくれる人は他にいません。 どんな問題が起ころうが、そこからは逃げられません。そういう立場です。 私も夜中に呼び出されて会社に行くこともあれば、休日でも会社に行って仕事をすることもありました。

海外駐在のメリット

仕事は大変ですが、海外駐在の魅力をいくつか紹介します。

1.権限や裁量が増える

日本勤務であれば一般社員であったとしても、海外工場では責任が重くなるためマネージメントの仕事をすることになります。上層部の人とのコミュニケーションも増えます。日本で勤務していたころは話す機会のなかった人達(例えば事業本部長など)でも、海外であれば一緒に食事をする機会も増えます。彼らが現地を訪問した時に、駐在員が彼らをもてなすからです。そういう人たちとの会話は参考になります。

2.組織づくりの経験ができる

海外工場に赴任する場合は、駐在員がリードして仕事をこなすことも大切ですが、現地人を育てるという役割も期待されます。駐在員がいなくなっても組織が機能するような体制を作らなくてはなりません。駐在期間は終わりがあります。日本勤務のように半永久的に続く関係を前提に仕事をするわけではありません。自分のスキルを現地に移管して、現地人でまわる仕組みづくりを期待されています。

3.行動的になる

とは言っても、海外での仕事はそう簡単には行きません。ほとんどの場合が苦労することの方が多いものです。私の経験論ですが、新米の駐在員であれば慣れるまでに2年くらいはかかると思います。そんな中でも仕事は仕事でこなさなくてはなりません。誰かが怠慢で仕事を放置しているようなことがあれば、物事は進展しません。他部門含めて全体的なマネージメントをしながら仕事を進めることになるので、行動的になります。駐在員という立場になると、「あいつが仕事をしていないから自分の仕事が進まない」などという言い訳はできなくなります。それを含めて駐在員の責任になります。

4.技術力が身につく

生産技術者が海外工場で生産ラインの面倒を見る場合、技術的に頼れる人は少ない(あるいはいない)場合がほとんどです。基本的に、その集団で自分が一番詳しいという立場になるので、すべて自分で解決しなくてはなりません。自分で調べて、課題を解決するという作業を繰り返します。中には難関もあります。
そういう経験を繰り返すことで、技術レベルは上がります。なぜこの設備はこの構造なのか、マシンタイムを改善するにはどうすればよいのか、不良率を減らすにどうすればよいのか、現場のマネージメントを改善するにはどうすればよいのか、など頭を悩ますことはたくさんあります。

海外駐在のデメリット

続いて、海外駐在のデメリットを紹介します。

5.仕事の責任が増える

精神的に強くない場合は潰れる可能性もあります。
私がこれまで見てきた他人のふるまいを紹介すると、2パターンに分類されます。1つは、仕事をバリバリこなして個人も成長していくパターン。もう1つは、自分に言い訳をして責任を放棄し、何しに来たのかわからないような海外生活を送るパターンです。2つ目のパターンに陥ると、仕事上での存在感もなく、いなくても困らない人物扱いになります。現地人含めて周りからそういう視線で見られます。

人それぞれの考え方があるので、いちいち細かいことを指導するつもりはありませんでしたが、人間はそういうものです。人選が失敗だっただけです。物事は最適論では進みません。残念ながら、会社とはそういうものです。 役に立たないレッテルをはられると、早期の帰任もありえます。現地人から信頼されませんし、日本の本社側からも信頼を失います。会社としては高い費用を払って駐在させているので、別の人間にそのポジションを譲るほうが良いわけです。

6.言葉の通じない人達を相手にしないといけないのでストレスになる

異文化に理解がない人や、日本大好きな人には合わないでしょう。期待した通りに進まないことの方が多いので、日本の考え方で仕事をするとかなりのストレスになります。 私は異文化に対する理解があるほうでしたが、仕事のプレッシャーも多かったこともあり、よくイライラしていました。

帰任後の仕事

海外で実績を残して日本に帰任すると、近いうちに昇格します。これはどこでもそうです。
ところが、 海外生活から日本に帰任した時には役職は上がるかもしれませんが、仕事の裁量は随分減ります。これまでは、本社から派遣された特別扱いの身分だった駐在員ですが、本社に戻ればピラミッドの一角に戻るわけです。仕事の裁量も減り、仕事のつまらなさを覚えるでしょう。海外帰任者で退職する人が多いのも、帰任後に物足りなさを感じるからだと思います。

以上、海外駐在は苦労の方が多いのですが、やりがいのある仕事です。困難を含めて楽しめる面白い経験になります。私は複数回海外駐在を経験し、それぞれの場所で違った苦労があり大変でしたが、やってよかったと思います。

※駐在生活についてもっと知りたい方は、"転職サラリーマン""エンジニアの海外駐在"を一読ください。
※参考書籍 生産技術の教科書Ⅲ(生産技術者のキャリア形成について)
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