190908 新製品・プロジェクトの立ち上がりと設備投資の考え方

今回は「プロジェクトの立ち上がり設備投資の考え方」というテーマで話をします。
※ティア1、ティア2で制御関係部品を取り扱っていた前提での話になります。

以前私が所属していた会社では自動車関係の部品を製造していました。
自動車業界は開発・検証期間が長く、1つの案件がキックオフしてから量産開始するまで約2~3年の期間をかけます。

1.自動車業界の仕事の流れ

APQP(先行製品品質計画)といって製品開発、工程設計、部品サプライヤの選定、製品の耐久試験、内部監査、マネージメントレビューなど自動車業界の仕事の流れを規定したやり方に従ってプロジェクト活動が進みます。 こうすることで、プロジェクト品質を持することと顧客満足を達成することができます。

製品のサンプルステージについても、A--> B--> C --> Dというサンプルステージがあります。
簡単に違いを説明すると、次のようになります。

Aサンプル

開発初期の段階で試作される数台レベルのサンプル。
構成部品が特注品のため、完成品1台100万円程度の価格で販売される。

Bサンプル

Aサンプルをもとに製品特性や組立工程の問題を改善した試作サンプル。 主に、製品特性の検証が目的で作られるサンプル。全部で100台程度の台数。 部品は仮型品を利用し、部材単価はAサンプルに比べて安く、製品売価も10万円~数十万円前後。 この後のCサンプルでは、部品の本型を機工するため、通常このサンプル終了後に設計Fixされる。 また、この段階でプロジェクトリードが製品開発部から生産技術部へ移行される。

Cサンプル

Bサンプルの結果をもとに、製品設計が固まり、量産に向けての工程設計や量産設備の準備が始まる段階。 また、ダイカスト部品や樹脂成型部品やプレス部品もこれまでの仮型ではなく、 量産用に本型と呼ばれる量産で使用する金型を準備する。 サンプル規模も数百台の単位で生産し、部品単体および組立製品の工程能力の検証が行われる。 製品の単価は1台数万円程度。

Dサンプル

量産同等の生産ラインで生産されたサンプル。 量産同等とは、量産工場、量産設備、量産部材、量産工程用に教育認定された作業員が作業実施、 という条件です。量産部品はPSW(Part Submission Warrant)のあるものです。 量産工程とは、工程能力検証やMSA検証、製造ドキュメント準備などの社内の承認プロセスを 経た状態のものです。 ここでは完全に量産レベルでのサンプル生産の扱いになり、通常顧客監査が入ります。 製品売価は数千円レベルまで下がります。

このAサンプルが始まって量産開始するまでの期間が、だいたい2~3年になります。 主に生産技術部の仕事が本格化するのはCサンプル、Dサンプルの段階です。 Dサンプル生産の後に、顧客承認や製品の信頼性試験を終えたあと、本格的な量産開始になります。 この量産開始後にも、生産の安定領域に入るまで生産技術の仕事はまだまだ続きます。

2.設備投資費用の考え方

続いて生産ラインの設備投資をするときの考え方について話をします。
生産技術エンジニアの仕事は、どういった生産ラインにするかの仕様を検討することです。
それでは、この時の予算はどのように考えればよいのでしょうか。

事業計画立案

まず、受注できそうな案件についての売り上げや利益を試算します。
これは各部署の情報をもとに企画部が対応します。

例えば、商品の販売価格が1000円で年間100万個の販売が期待できて、この事業が5年続くとします。 このとき、この事業の総売り上げは50億円です。(単価×数量の総額です。) 次に、材料費、輸送費、設備投資費、直接人件費、間接人件費、販売管理費、その他費用などを試算します。
これらの試算の後、期待される利益が算出されます。ある程度の利益が期待できるのであれば、この事業をやる・やらないの判断を役員会で決済します。通常、利益率10~30%を期待できれば、健全な事業といえます。利益率が低くてもシェア確保や将来性がある事業については、戦略的に事業を始めることもあります。

生産技術エンジニアの役割(設備投資試算)

生産技術部で試算するのは、量産ラインの設備投資総額と直接人件費の試算です。 会社の考え方によりますが、設備投資は総売り上げの2~3%が目安です。 総売り上げの3%とすると、今回の場合は1.5億円が設備投資の上限になります。 仮に1.5億円とした場合、5年で償却しないといけないので、毎年の減価償却費は3000万円になります。

続いて、この1.5億円相当の設備投資をしたときに、この量産ラインで必要な作業員の数を試算します。 例えば、生産ラインを稼働させるために5名の作業員が必要とした場合、毎年この5名の人件費が発生します。 日本に生産ラインを引くとして、1名当たりのチャージを5000円/時間で計算して、1ヶ月で80万円です。 5名であれば400万円/月、4800万円/年となります。 ※これはあくまで1シフト稼働の場合です。シフトが増えればこの4800万円×シフト数になります。

( ※参考: 生産ラインの原価計算

この事例の場合、生産ラインとして設備償却費と直接人件費で年間7800万円のコストになります。 これが製造コストになるので、製造にかかるコストは年間売り上げ10億円の約8%になります。 生産技術エンジニアの仕事は、この比率を最適化することです。 設備償却費と人件費のバランスを見ながら、設備の自動化と直接作業員の人数をバランスさせます。

簡単ですが、以上が設備投資金額が決まる仕組みです。 また、上述したように日本で生産した場合の人件費は高額です。 この人件費が途上国であれば、日本の10分の1や5分の1で済みます。 途上国で生産する理由は明らかです。

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※参考: 生産ラインの原価計算