191001 生産技術の仕事(新規ライン導入から安定稼働まで)

今回は「生産技術の仕事(新規ライン導入から安定稼働まで)」というテーマで話します。

生産技術の仕事にはいろいろ切り口はあるのですが、今回は新規ライン導入と生産維持という点で紹介します(ほとんどの生産技術エンジニアの方はすでに安定稼働している量産ラインの維持・改善活動がメインになっているはずです)。今回は、そういった安定稼働しているラインではなく、立ち上がりから1年以内の新規ラインについて話をします。結論を先に述べると、経験と実力がないと務まりません。

1.新規ライン導入の概略

仕事内容を簡単に説明すると、新しい製品を生産するための工程設計、設備投資・労務費試算、設備仕様作成、導入計画・設備手配、設備検証・初期評価、連続生産確認・問題点の潰し込みなどです。今回は各項目の詳細説明は省略しますが、概略は上記の通りになります。

製品設計にもよりますが、1ラインでおよそ20~30からなる組立て・検査工程のラインになります。設備投資額も数億円規模になります。ポイントとして、工程設計や設備仕様作成ができるようになるには、製品構造や生産工程を深く理解しておかなければなりません。つまり、未経験者や別業界出身の中途エンジニアでは、いきなり新規ラインの仕事には対応はできません。

最初のうちは、類似製品や類似工程の量産ラインを経験しないと新規ラインの導入はできないということです。私の経験では、製品構造や特性および生産工程を全工程にわたってマスターするのに3年ほどかかりました。そのあとで、5年目くらいから新規案件を立ち上げるプロジェクトにも恵まれたこともあり、プロジェクトリーダーをするようになりました。その時は量産工程や設備仕様はマスターしていたので、生産技術の仕事自体はすんなりこなすことができました。

※プロジェクトリーダーは、どちらかというとそういう生産技術よりの仕事ではなく、全体マネージメントや他部署との連携業務がメインになります。純粋にエンジニアの仕事を希望する人には、向かないかもしれません。

繰り返しますが、新規ラインを導入するには量産ラインを経験して製品と設備仕様について理解を深めた後でないとできないということです。

新規ラインの導入は大変

設備問題、部品問題、設計問題など安定稼働する前にたくさんの問題を潰し込まなくてはなりません。生産ラインにもよりますが、汎用組立工程の場合、安定 稼働するまでに少なくとも半年~1年はかかります。

例えば、設計の問題を例に挙げると、類似設計を踏襲しないで製品設計を大きく変更した場合は、それにつられて工程設計や設備仕様も実績のない方法を採用しないといけません。たいてい生産が始まってから問題に気付きます。部品問題も同様です。生産工程が安定稼働していても、部品不良(あるいは設計図面の指示不良)により生産工程上の問題を引き起こします。設備についても同様です。数を流すと、徐々に設備の課題点が見えてきます。このように、新規ラインというのは問題だらけの状態から始まります。

2.立ち上がったばかりの新規ラインの生産維持

続いて正式に生産開始した後の生産維持の話をします。
たまたま、以前私が勤めていた会社では事業拡大に伴って、既存の体制で処理できる以上の仕事を受注していました。おかげで毎年売り上げは伸びていました。

ところが、社内の体制が整う前に拡大を急ぎ過ぎたせいで、業務量に対して社内のリソースが不十分でした。納期に追われて各工場に不完全な新規ラインを導入していきます。ところが、業務量に対して社内のリソースが不足している関係で、経験の浅いエンジニアも主担当としてアサインされます。小さな問題1つを解決するのに数ヶ月から1年も時間がかかるような状況が続いていました。こんな状況では、とても本格稼働した後に量産を継続するようなことなどできないと思えるような状況でした。

案の定、徐々に火車状態になり、顧客クレームが事業部長レベルにエスカレーションされます。手遅れの状態になって、ようやく層の薄い人材のなかからエキスパートを派遣するという完全に後手の仕事のやり方でした。

新規ラインの導入にも高いレベルでの技術力と経験が必要です。そして、そのラインを量産稼働後に高い品質で維持するためには、同じくらい高いレベルの経験と技術力が求められます。導入した量産工程・設備の面倒が見えないような体制の組織は、新規ラインを購入するべきではないのです。


3.新規ラインの導入は生産技術職の魅力であり、実力を磨くための機会

生産技術職の魅力の1つは、新規生産ラインを導入できることです。
自分が仕様を決めた生産ラインを導入するということは、大きなモチベーションになります。昨今の日本の経済情勢下では、日本国内で設備投資をするということは、あまり経験できないかもしれません。幸いにも、私は会社員時代に毎年のように数億円の設備投資を経験することができました。

新規ラインの立ち上げ経験がない生産技術エンジニアでは、新規ラインの立ち上げはできません。これは私の経験から断言します。プールに入ったことがない人が、うまく泳げないのと同様に、立ち上げ経験のない人は新規ラインを立ち上げることはできません。

例えば、設備のレイアウト、設備検証用の部材の準備、オフラインの治工具や備品などの準備やドキュメントの準備、顧客監査の対応、作業員教育、ラインリリースのためのマネージメントレビュー、各工程のパラメータ評価、工程能力評価、MSA、マスターワークの準備・登録、設備デバッグ、問題点の潰し込みなど、生産できる状態に持ってくるまでに山のように仕事があります。

これは経験しないとわかるようにはなりません。会社の都合で新規ラインの投資がなく、こういった経験を積んだことがない人がいることも事実です。5年や10年、生産技術をしていても投資案件に恵まれずに、既存の小さい改善業務しか経験したことがない人は大勢います。たまに投資案件があったとしても、社内の大勢のリソースをかけるため、各担当の担当配分が少なく全体の業務流れを経験できません。そういった点を考えると、私は恵まれていました。きわめて忙しい生活をして、仕事に忙殺されたことは事実でしたが、終わってみればいい経験だったと言えます。

生産技術エンジニアとして、力をつけたいと考えている人は成長産業、あるいは成長している事業部のある会社で仕事をすることを勧めます。この「環境」というのは成長プロセスを決定づける大きな要因になるからです。


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