191127 10年以上の経験者が語る生産技術職がツライと感じる事例5選

今回は「10年以上の経験者が語る生産技術職がツライと感じる事例5選」というテーマで話します。
10年以上やっていると嫌なことも何度もあります。生産技術職の負の部分をいくつか事例を挙げて紹介します。

ツライ事例1)スキルが不足しているとき

経験が浅いときは何をやっても、うまくいかないものです。一般的に人を教育するときは、レベルにあったタスクを与えて少しずつステップアップさせるべきだと考えています。10年以上前になりますが、会社に入社して初年度の後半くらいから仕事が徐々に忙しくなりました。今の私が当時を振り返っても、過剰と思えるほどの業務をこなしていました。

当時は自分のレベルも低く、思うように仕事をこなすことができなかったので、「自分に責任があるのでは?」と悩んでいました。実際は、レベルと仕事量のバランスが悪かったのですが。自分の場合も含めて、大勢の人間観察をしていてわかったことですが、自分に自信が持てなくなると、人はその場から逃げたくなるようです。処理できない仕事を抱え続けることによるストレスが苦痛になるようです。新入社員が設備の面倒など見えるわけがないのですが、当時の自分は設備を相手に頭を悩ませていました。
こういう問題の解決方法は、スキルを磨くしかありません。

ツライ事例2)体制が破綻しているとき

入社して最初の数年の頃でしたが、プロジェクトの立ち上げで忙しい毎日を過ごしていました。仕事量も多く、毎日夜遅くまで仕事をしていました。休みの日もこっそり会社に来て仕事をしていました。初めて海外の工場に出張した時は、1ヶ月以上も休みもなく仕事をしていました。いろいろなところに無理がある状態で仕事をしていたわけですが、当時は社会経験も浅く「異常」だと認識できませんでした。

いま振り返ると、見方が少し違います。仕事の進め方が悪く、プロジェクト全体のマネージメントや部内のリソース配分が適当でなかったのです。もっとうまいやり方はあったはずですが、目先の仕事に手一杯で構造的な問題の対策を打つことができていなかったのです。自部署の社員をそこまで酷使するマネージメント層の責任も重く、なりふり構わず仕事をするというやり方の会社でした。日本の会社の悪い部分でした。このときも何度も嫌な思いをしながら仕事をしていました。当時の自分含めた同僚は、周辺環境の犠牲者でした。

この課題の対策は、マネージメント判断とマクロな視点で俯瞰して仕事をすることです。どうしようもなければリソース配分や仕事量を上長に見直してもらうしかありません。また、マクロな視点で仕事全体を見ると無駄な作業をなくして、多少効率的に仕事を進めることができます。

ツライ事例3)設備が予期せぬ故障をするとき

3つ目は設備の故障です。自然に故障したものなら仕方がないのですが、メンテナンス不足による故障、技術員が対処を間違って壊した、インターロック不良による故障、必要な予備品を購入していないことによる後手に回る対応、などの人為的な原因で生産が止まることが頻繁にありました。

少し具体例を上げると、センサー1つ故障しただけで数時間も止まるようなこともありました。特殊部品の在庫を持っていなかったために、数日間生産が止まったこともありました。夜勤の生産で変なことをして、本来ありえないような設備故障も何度もありました。(解決できないのなら、まだ放っておいてくれた方が良いのです。下手にいじって、替えの利かない部品を壊されたら被害が大きくなるだけです。)

各人が主体的に行動してくれればよいのですが、当時勤めていた会社ではそういった問題の後始末のほとんどを私が対応していました。正しいアプローチをすれば避けられたはずの問題の事後処理ばかりをしていると、自分がただ奴隷のように仕事をしている気分になってきます。もっと建設的な仕事にリソースを注ぐべきですが、当時やっていた仕事はそういったネガティブなものばかりでした。こんな仕事のやり方では会社の業績などよくなるはずがありません。この時も仕事が嫌になりました。

この課題の対策は、周辺環境を変えるしかありません。従業員を長期的に教育していくか、優秀な人材を外部から採用して、ある程度組織が機能する集団で仕事をする必要があります。会社側が改善する見込みがないのであれば、その会社に見切りをつけて自分が退職するのも1つの選択肢です。

ツライ事例4)将来の見通しが立たないとき

私が勤めていた会社では、人使いが雑な上司が大勢いました。彼らは彼らでよく検討した上での判断だったのかもしれませんが、振り回されるほうはいい迷惑でした。これもいくつか具体例を挙げます。

例)1ヶ月以上の出張から帰国して1週間も経たないうちに、別の場所へ数ヶ月の出張をさせる。
例)1ヶ月の出張予定が延長になり3ヶ月になる。
※別に自分の仕事が遅れていたわけでもなく、ただ上層部の都合で勝手に決められました。

当時勤めていた会社では本社所属で、現場はすべて海外工場でした。私のような生産技術者が仕事をするには工場に出張するしかないのです。そのせいで、頻繁に長期出張をしていました。別に出張することが嫌だったわけではないのですが、思いついたかのように突然の出張要請を受けることが頻繁にありました。

これでは自分の生活に見通しを立てることができません。(当時の自分を振り返ってみても、使い勝手の良い人物でした。自分でも部下に欲しいと思うような人材でした。そのせいで、よく仕事のしわ寄せを受けていました。)

当時は、そういう無計画な人材派遣があるたびに是正を促していました。たとえ上司であろうと、誰かが指摘しないと「その行動と決断が他人に迷惑をかけている」ということを認識しません。その時の上司に嫌われようとも、そういう小さな行動を起こさなくては、その他大勢の人が同じような犠牲に陥ってしまいます。 この課題の対策はシンプルです。現場がある場所で勤務すればよいのです。それなら出張する必要がありません。

日本の製造業の現状

生産技術の職場は生産ラインなので、基本的には工場が職場になります。日本に工場がある場合は、勤務先がそのまま職場になります。私が以前勤めていた会社では日本に生産ラインがなく、工場はすべて海外でした。おかげで生産技術という仕事に、変な「ひずみ」がありました。

日本の製造業階の現状を紹介します。20年くらい前から人件費の安い海外へ生産移管を進めています。何らかのメリットがある場合を除いて、日本で製造することはほとんどありません。特別な場合とは、顧客が日本にいる場合や、日本で製造しても利益が上げられる場合などです。

人件費が5~10倍も違う途上国と日本では、人手のかかる製造業などには適していません。これは日本だけでなくアメリカやヨーロッパでも状況は同じです。

生産技術者の海外出張とプライベート生活

「海外に行ってグローバルに働ける」といえば聞こえはいいですが、現実はそんな華やかなものではありません。慣れない人にとっては本社のぬるま湯に浸かっていることがどれだけ楽かと思えるほど、現場の仕事は大変です。自分の非力さと厳しい現実を突きつけられます。それでも徐々に仕事に慣れると、仕事が面白くなってきます。

日本勤務で生産技術職をすると、職場と生活拠点が一致しないという「ひずみ」が発生します。職場は海外工場になります。新規ラインの立ち上げや量産機種の改善業務などは長期間出張して対応するような仕事です。一方で生活の拠点は日本になります。

仕事を楽しもうと思えば、プライベートの生活を捨てて出張しなくてはなりません。プライベートの生活を充実させたいと考えると、現場での仕事をあきらめないといけません。若いうちは、ひたすら仕事をして経験を積むという選択肢もありですが、ある程度年を重ねてくると、自分を納得させてこの「ひずみ」の中で生活していくことは簡単ではありません。これが生産技術者のつらいところです。

その生活で満足している人であればともかく、そうでない人はどこかで決断をしなくてはなりません。私が考える限り以下の4つの選択肢です。

・生産技術以外の部門に異動する
・生産現場が日本にある会社に転職する
・海外工場に駐在する。(出張しなくて済む)
・全く別の仕事に就く

製造現場がないことによる弊害

この「ひずみ」の弊害は他にも存在します。それは、スキルが身に付かないことです。海外工場でバリバリ働いている人であれば問題ないのですが、そうでない人は日本で生産技術をしていても現場がないのでスキルが身に付きません。

先述した通り海外工場の仕事は楽ではありません。現場に打ちひしがれて、困難を避ける生活をしていると年齢だけを重ねて役に立たない人物になってしまいます。また、一流の技術を持っていた人でも、現場から離れて仕事をしているとスキルは徐々に落ちていきます。やはり、工場で毎日現場の対応をしている人には敵いません。厳しいかもしれませんが、これは現実です。

これから生産技術の仕事を目指す人は職場環境をよく考慮してみてください。海外出張に対して華やかなイメージを持たれるかもしれませんが、現実は上記のとおりです。最初はウキウキした心地になるかもしれませんが、1年のうちほとんど日本にいないような生活になると、出張が億劫になります。家庭や社外の交流も人生の大切な要素の1つですが、それらをすべてあきらめなくてはならなくなるからです。

ツライ事例5)24時間稼働体制の面倒を見ないといけないとき

海外駐在していた当時、生産数の増加に伴いシフトが増えました。問題対応できるエキスパートも少なかったため、私を含めた少数名で現場の問題対応をしていました。24時間勤務で週末も稼働するようになると、間接人員の休む時間がありません。

体制も弱かったので特定の人間しか対応できない問題もたくさんありました。夜中であろうが、早朝であろうが工場に行って問題処理をしたことは何度もあります。そんな状況が続くと、長期休暇や1週間程度の出張に対しても、生産計画や製品在庫状況を心配しなくてはならなくなります。こうなってしまうと何をするにも、負のスパイラルに陥っていきます。

まとめ

生産技術の仕事をしていると、上述したような事例を経験します。設備の問題対応には悩まされます。生産にも追われるためプレッシャーもかかります。どんな状況でも技術者として実力をつければ、仕事は楽になります。仕事に余裕ができると、少し広い視点で状況を観察できるようになります。
アドバイスとして、次の3つが生産技術職を楽しくするためのポイントになるように思えます。

  • 自分の実力を磨く
  • 生産現場のある拠点に勤める(現場のない本社には勤めない)
  • 優秀な人と仕事をする


もう1点。読んでいて気づいた人もいるかもしれませんが、上記事例で生産技術という仕事自体が問題になっていることは、本人の技術力が不足している課題以外ありません。それ以外の事例では、生産技術職自体が問題なのではなく、本質的な問題は同僚、上司、会社方針です。つまり、どの会社で生産技術をするかということがポイントになります。生産技術者で仕事に悩みを抱えている方は、生産技術職を辞めるという決断をする前に、その悩みの本質が何なのかよく考えてみてください。


※関連記事(生産技術の仕事内容とキャリア形成)
※関連記事(10年以上の経験者が語る生産技術職の5つのメリット)
※関連記事(生産技術エンジニアが目指す21世紀の働き方)
※関連記事(生産技術の仕事 ~新規ライン導入から安定稼働まで~)