190922 製造業における品質問題と量産の恐ろしさ

今回は「製造業における品質問題と量産の恐ろしさ」というテーマで話をします。製品を量産するということは、効率よく生産して製品価格を安くできるというメリットがあります。工業製品の量産化は、大量消費生活を支えてきました。ちまたでは量産の良い面が注目されがちですので、量産の恐ろしい部分について紹介します。
※残念ながら、生産技術エンジニアが主体的に不具合要因に関与する場合もあります。

【目次】

  1. 市場で見つかる品質問題について
    • 品質問題にかかる費用負担
    • 品質問題における製造者の責任
    • 品質問題の種類
  2. 社内で見つかる品質問題について
    • 量産工程内で不良として検出される場合
    • 量産工程内で不良として検出されない場合

市場で見つかる品質問題について

タカタ社のエアバッグ問題でわかるように、品質をおろそかにすると会社をつぶすほどの被害を及ぼします。タカタ社の問題はメキシコ工場での生産部品でした。当時私もメキシコ工場で勤務していて、自社工場の品質にそこまで自信が持てなかったので、明日は我が身という思いでした。

品質問題にかかる費用負担

品質不具合を発見した場合、その対象製品が何台あるかという絞り込みを行います。たいてい工業製品は分解不可能な構造になっています。不具合対象製品は原則すべて廃却になります。規模にもよりますが、1回の品質クレームで少なくとも数千万円程度の特別損失を発生させます。これらは製品の廃却費用や選別費用、代替製品の緊急出荷費用などを含めた費用です。不具合製品の対象範囲が大きくなると、会社経営自体に大きな影響を及ぼすレベルにまでなります。


品質問題における製造者の責任

自動車業界は特にほかの製造業界と比較して品質や安全に対する要求は高く、「問題を隠す」などという行為は認められませんし、できません。品質で失敗すると会社に費用面と信用面で大きな損害を与えることになります。重大不具合の場合は、製品を製造した時の点検記録や品質確認記録だけでなく、当時のパソコンのデータやメール履歴まで徹底して調査されるようです。

PL法の考え方に従い、 専門業者として保証すべき品質や機能が保証できていない場合は、どんな言い訳も通用しません。設計検証が甘かった、あるいは製造工程の管理が甘かったなどということは、理由になりません。社内の各部署及び品質保証部が内部監査を行い、品質が保証されたものを市場に供給するという決まりがあります。


品質問題の種類

品質不具合にはいろいろあります。外観上の傷程度のものもあれば、製品ラベルの機種間違いやシリアル重複もあります。この程度の問題ならば、製品機能的にはまったく問題ありませんが、仕様から逸脱したものとして品質クレームの対象になります。重度のものでいえば、製品の機能不具合です。電子制御するような製品への金属屑混入によるショートや通電部の耐圧不良などは完全な機能不具合です。自動車は雨や粉塵にもさらされるため、ほとんどの自動車部品は防水性やシール性を求められます。従って、シール不良も重度の品質不良となります。


検査設備の設定が間違っていたり、誰かが意図的にインチキをしていたりした場合にはその検査を通過した製品の品質が保証できていないことになり、取り返しのつかない問題になります。そういった不具合を予防するためにも、正しく検査されているかという点検を毎日しなくてはなりません。これは最終検査工程だけでなく、全生産工程にわたっての話です。

以上が市場や顧客向けの品質的な話です。 続いて社内的な話をします。

社内で見つかる不良について

少なくとも上述したような品質不具合は社内で見つけたいものです。

量産工程内で不良として検出される場合

これについては、市場問題にはなりません。社内の廃却費が増えるだけです。程度にもよりますが、10%を超えてくると生産できる状態ではありません。会社経営者としてみれば、利益を上げるために製品を作っているのか、不良品を作って損失ばかりを出しているのかわからなくなります。特に、製品に占める原材料費率が高い場合は、不良廃却費が多いと利益などありません。これでは何のために製品を生産しているのかわからなくなります。

とはいえ、量産開始後には生産に追われます。不良が多いから生産を止めてじっくり原因調査ということもできません。短期的に解決しなければ供給問題になり、顧客ライン停止の損失補償をしなくてはなりません。自動車業界の場合、最終的な自動車メーカのラインを止めることになりますので、こちらも数千万円から億の単位で費用請求されることになります。

量産工程内で不良として検出されない場合

例えば、設備の判定が何かおかしい、あるいは設定が間違っていた、あるいは外観検査員が製品の異常に気付くような場合です。通常工程では検出できない、あるいは検出しにくい問題です。既に大量の製品を生産し終わった後に、こういう問題に気付くことがしばしば起こります。品質リスクと発生率や影響度を考えて、社内で選別をすることになります。ある程度、経験を重ねると選別必要かどうかの判断、品質リスクの判断に対して的確な判断をすることができるようになります。

※というのも、何でも選別すればよいというわけではないからです。対象数や発生率、顧客への影響度を含めて、どうしても選別しないといけない問題と、そうでない問題があります。選別して不良が見つからなくてよかったという場合があっても、それなら最初から「選別不要」と判断をするのが正解なわけです。逆に選別することで2次災害を引き起こすこともあるからです。


以上が、量産の恐ろしさです。

私も生産技術エンジニアとして、何度もこういった品質問題に携わってきました。 たまに生産ラインを見ていると、生産技術者が直接関与して品質問題を起こしている場合も見られます。問題を正しい方法で解決できないので、設備の設定をインチキして良品として流すという方法です。未熟な人ほど、こういう安易な手段をとってしまう傾向がありました。絶対に素人では変更できないような部分の設定で、変更されていることに気付くと少し残念な気分になります。品質リスクを理解した人間であれば、こういった判断はしません。あとで自分たちが苦労するだけだからです。



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