200325 接着剤を使用する製品が量産工程へ与える影響

今回は「接着剤を使用する製品が量産工程へ与える影響」というテーマで話をします。生産技術エンジニアの経験をもとに、重要特性で使用される接着剤の種類やメリット、量産時の注意点を中心に説明します。

【目次】

  1. 接着剤を使用する用途と背景
    • シール性(気密性)
    • 剛体の固定
    • 使用される接着剤の種類
  2. 接着剤のメリットとデメリット
    • 熱硬化性接着剤のメリットとデメリット
    • 常温硬化性接着剤のメリットとデメリット
  3. 量産工程での懸念点
    • レイアウトや物流の問題
    • 塗布工程、特性の確認工程の管理
    • 接着されていないという品質リスク
  4. まとめ

接着剤を使用する用途と背景

接着剤が使用される用途をいくつか挙げると、単純に部品を固定する場合、部品の隙間を埋めてシール性(気密性)を持たせる場合、端子などの露出部をメカ的・電気的に保護したい場合などです。今回は機能的に重要な部分である、剛体の固定やシール性(気密性)に使用される接着剤について取り上げます。

シール性(気密性)

電気・電子部品などを内部に収納するケースなどに使用されます。例えば、自動車部品などは粉塵や汚水にさらされるた め、高い防水性や気密性が要求されます。こういった部品は気密性を保持するために、シールしたい部品の隙間にOリングを挟んだり、接着剤やグリスを塗布して隙間を埋めています。

剛体の固定

剛体の固定は、一般的に接着剤と聞いて想像する使用方法です。破損した部品を接着剤で固定して保持する方法と同じです。この場合のメリットとして、剛性のない部品(例えば樹脂部品)や固定しにくい構造の部品を固定する場合に適しています。 一方で、そのほかの固定方法(圧入、カシメ、溶接など)に比べて、接着工程の信頼性は低く、管理も面倒になる場合がほとんどです

使用される接着剤の種類

接着剤の種類は様々ですが、接着剤の専門家ではないので、接着剤の議論はここでは控えます。※あくまで汎用組立工程の生産技術者向けに、量産工程の検討に役立つ情報に絞って記載します。 私がこれまで取り扱った接着剤を2種類取り上げます。1つは熱硬化性のもので、もう1つは常温硬化性のものです。この2つについて記載していきます。


接着剤のメリットとデメリット

熱硬化性接着剤のメリットとデメリット

当時の私は自動車部品を担当していました、自動車部品は超低温から高温までの温度に耐えられる仕様になっている必要があります。高温領域では、80度くらいでも安定稼働する必要がありました。使用する接着剤の温度特性(収縮や膨張)を考慮すると、使用箇所によっては熱硬化性の接着剤を使用しなくてはなりませんでした。熱硬化性の接着剤は、そういった用途には適していました。

ところが、熱硬化性接着剤のデメリットもあります。高温状態で一定時間の加熱が必要という点です。例えば100度の状態で30分以上加熱することが硬化条件だったりします。サンプルを数台生産するレベルであれば問題ないのですが、量産工程には適していません。

常温硬化性接着剤のメリットとデメリット

常温硬化性の接着剤は、熱硬化性の接着剤と違って加熱工程は不要です。塗布して終わりなので管理面で手間がかからないというメリットはあります。一方で、高温領域での耐久性は期待できないため、強度が求められる部分の接合には利用できません。また、硬化時間が長い場合(例えば、24時間以上など)には、気密試験をするにも放置時間を長くとらなければならないというデメリットもあります。

量産工程での懸念点

続いて、工程設計への影響を考えていきます。 製品特性を確保するうえでは便利な接着材ですが、量産工程では悩みの種になります。

レイアウトや物流の問題

例えば、上述の熱硬化型の接着剤の場合、大型の加熱炉を配置しなくてはなりません。バッチ型のものにすればスペースの節約は可能ですが、FIFO管理が難しくなります。コンベア型のものにすればFIFO管理は楽になりますが、かなりのスペースを消費します。 量産工程のサイクルタイムは15~30秒のレベルです。

それに対して、加熱時間だけで30分となると昇温時間と冷却時間を含めても、大量の製品を処理できるサイズの加熱炉を設計しなくてはなりません。サイクルタイム要求を満足させようとすると、コンベア式であれば加熱炉は10m以上もある設備になってしまい、完全に生産ラインのスペースを圧迫してしまいます。

塗布工程、特性の確認工程の管理

塗布動作自体は簡単なものですが、塗布後に製品を組み付けてしまうと内部に接着剤が塗布されているのかどうか、外から見ただけではわかりません。各部品にDMCなどのシリアル情報が付属していて、工程完了かどうかをトレースできるシステムでもあれば照合可能です。

ところが、そういったポカヨケシステムを持たない生産ラインの場合は、接着剤未塗布品が流出してしまう品質リスクを伴います。 後工程の特性確認(接着確認や気密試験)で検出できるのであれば、それでも良いのですが、抜き取り検査をしている場合は、市場で重大な品質クレームを引き起こすリスクをかかえることになります。

接着されていないという品質リスク

通常の状態であれば、正常に接着されるのですが、量産をしていると思わぬところで落とし穴にはまることがあります。
例えば、プレス品や金属部品を接着する場合などはプレス油がわずかに付着していたり、防錆油が残っていたりすることで接着が阻害されます。作業員の手袋の表面から異物が付着して接着が阻害される場合もあります。
加熱炉の温度が実は上がり切っていなかったという場合もあり得ます。通常は温度センサーが付属していますが、重要なのは加熱炉が検出する温度ではなく、製品表面の温度上昇がどうなっているかです。これは製品表面に熱電対をつけて定期的にモニタするしかありません。

まとめ

接着剤は実験室レベルでは便利な品物ですが、量産での管理は簡単ではありません。
長年、生産技術をしてきた経験で語ると、高い品質が要求される重要特性を接着剤に頼ることはやめてもらいたいものです。特に量産工程の物流やレイアウトの面で考えると、量産には適しているとは思えませんでした。 重要特性を接着という方法に頼るという考えは、どう考えても技術力が高いとは思えないのです。あくまで生産技術側からの意見ですが。

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