200401 製造業界における顧客監査の概略紹介と対応方法
今回は「製造業界における顧客監査の概略紹介と対応方法」というテーマで話をします。BtoBの製造業界で生産技術をしていると、取引顧客の監査や見学を受けることが頻繁にあります。今回はそういった監査対応について概略を紹介します。
製造業界における顧客監査とは
監査を受けるということは、自分たちの仕事ぶりに対して社外の人が評価するというものです。正常に機能しているかを判断する指標としては、いい機会です(※逆に外部から監査を受けない閉ざされた仕事空間であれば、悪い方向に作用することもあります)。
監査によっては、新規取引前に実施される工場監査やシステム監査といった種類の監査や、新製品を新規ラインで生産するとのPPAP(Production Part Approval Process)と呼ばれる監査などがあります。購買部や品質保証部であれば、自社の部品サプライヤに同様の監査を実施しています。
生産技術エンジニアの場合は、生産ラインで顧客監査を受ける立場になります。
製造業界における顧客監査の概略
一般的な工場監査の概略を説明すると、次のような項目になります。
モノの流れとそこでの責任部署での仕事内容の確認です。
- 倉庫での部品入庫方法と在庫管理(FIFO)
- 部品の受入検査方法、品質管理項目、検査頻度、異常時の処理
- 生産ラインでの監査(※詳細は後述します)
- 設備保全体制(スキル、スペアパーツ在庫管理、メンテナンス計画、ダウンタイムトレンド確認と活動内容)
- 出荷検査(検査項目、頻度、異常時の処理)
このような項目で、短い場合は1日で監査が終わる時もあります。通常は2~3日かけてじっくり詳細を監査します。
信頼性の高い監査を実施するためには、監査する人物のレベルも高くなくてはなりませんので、優秀な人物が監査員として来ることになります。対応者側は、部署責任者レベルになります。プロジェクトマネージャー、営業担当者、品質保証担当者は、ぴったり監査員についてすべての監査をエスコートします。
それ以外の部門関係者は自部署の出番になった時に対応することになります。
生産ラインでの監査と注意すべきこと
生産ラインでの監査項目は次のような内容になります。
生産技術エンジニアやライン責任者が監査員の対応をします。
- コントロールプランの内容
- 設備パラメータとコントロールプランの整合
- 製造帳票の整合
- 記録内容と確認
- マスターワーク確認(校正登録と校正期限)
- マスターワーク実際の動作確認
- 作業員の教育記録(工程理解度と品質認識)
- スキルマトリックス
- 特殊工程従事者の認定方法
- KPI(生産性や不良率のモニタリングなどの改善活動の状況)
監査のガイドは現場のドキュメントです。生産現場であれば、コントロールプランが上位文書で、製造帳票(作業マニュアルやチェックシート)が下位文書になります。コントロールプランの項目ごとに内容を確認され、文書通りの管理が正しくなされているかどうか、整合が取れているかどうかを確認されます。
したがって、何度も何度もコントロールプランの見直しをしておくべきです。現場の運用との不整合などが1つでもあれば、監査時の説明が苦しくなるばかりか、現場の信頼性が疑われることになり、さらに監査内容が厳しくなります。
また、監査員は現場作業者に直接質問します。作業者が正しく作業を理解しているか、品質判断の基準を理解しているか、異常時の処理はどうなっているか、異常品の市場での影響を理解しているか、などを質問します。
場合によっては、これらの細かい質問をさけることもできます。例えば、工場がある国と監査員の国籍が違う場合などです。ところが、監査をするときは現地の言葉ができる人物を連れてきているか、現地法人の人物に任せています。
したがって、文書だけでなく作業員教育を含めて現場の管理体制を常日頃から徹底しておく必要があります。
監査前の準備とありがちな失敗
最後に、これまでの監査経験から、生産技術エンジニアがやりがちな失敗を紹介します。
担当者のレベルにより準備品質が大きく変わります。新規ライン導入時には設備デバッグが大変なこともあり、生産ラインとしての準備状況がよくないものです。
生産ラインの立ち上げと監査対応では、優先事項が異なるので次のような事例が頻繁にみられます。
- 設備が正常に動けばよいというものではない
- 設備パラメータが甘い(チョコ停を減らすために本来より管理幅を広げている)
- ポカヨケが機能していない(本来盛り込むことになっているポカヨケ機能がオフになっている)
- 製造ドキュメントとコントロールプランが不整合だらけ
- マスターワークや計測器の登録番号と校正期限がない
- 特殊工程のパラメータ検証根拠がない、あるいは即答できない
- 社内リリースの手順が不明確(マネージメントレビューなどの未実施や理解不足)
監査をうまく乗り切るためには、何度も監査を経験して要領を理解するしかありません。何度も経験すると、監査員は同じような質問をしていることに気付きます。
余裕があれば、ISOやIATFの書籍を購入して勉強しておくことです。監査項目にもスタンダードがあって、監査員はそのスタンダードに基づいて監査をしています。
準備期間が少ない場合は、内部監査を何度も実施して本番前に不具合の改善と監査練習をすることです。
監査の指摘事項は数件以下がターゲットです。
何十件も指摘を受けるようであれば、普段の仕事のやり方を見直すべきです。
以上、生産技術エンジニアの経験から顧客監査の概略と対応方法について紹介しました。
関連書籍)IATF16949 解説と適用ガイド-IATF認証取得及び維持のためのルール-
※関連記事) 新規生産ラインで行うRun @ Rate 生産の概略紹介と注意点
※関連記事) 実際にあった顧客監査の具体的事例紹介