200402 実際にあった顧客監査の具体的事例紹介

今回は「実際にあった顧客監査の具体的事例紹介」というテーマで話をします。前回の顧客監査の概略紹介の追加で参考としてみてください。すべて実体験をもとにした出来事ですので、監査の実態や失敗例をイメージできるかと思います。

顧客監査の具体的事例1(NG品のデータを要求される)

この生産ラインは部品にDMC(DataMatrixCode)を刻印して全数シリアル管理していました。
生産ラインのほぼ全工程にわたり、工程ごとの検査データや仕様部材のロット情報までサーバーにデータ保存していたおかげで、個別部品レベルまでトレーサビリティが取れるようなシステムでした。

このトレーサビリティシステムは顧客要求の1つでもあったため、顧客訪問時にもシステム概要の説明をしていました。そのとき、あるカシメ工程でカシメ部分のカメラ検査NGになった製品がありました。よくあるチョコ停の事例で、そのまま現場見学を続けていました。
その時に、その顧客は部品のシリアルを控えていました。細かいNG内容までは外部のものにはわかりませんが、NGだったという事実とシリアルをメモしていたようです。

一通り現場での説明が終わって会議室に戻ると、データを調べてほしいという要求があり調べることになりました。 依頼のあったシリアルの工程データを示して判定結果と内容を説明しました。なんと、現場見学時に顧客の目の前で起きたカシメ工程のNG品のシリアルだったのです。

正しくシステムが機能していることを確認したかったようです。もちろん、システムが正常に機能していることはライン導入初期の段階で確認していたので、何の問題もありませんでした。

顧客監査の具体的事例2(朝6時からの監査)

当時勤めていた工場では、朝の生産シフト開始が6時でした。事務所のスタッフは7時か8時ころに出社していて、顧客訪問は8時以降が一般的でした。ところが、ある顧客担当者はシフト開始から立ち合いたいというのです。始業点検やシフトの切り替わりの確認をしたかったようです。

私も5時30分頃には出社して現場の事前確認などをしていました。その時の顧客は7名という体制で訪問していて、仕事熱心な顧客だという印象を受けました。1名くらいであれば、何とかごまかしながら顧客監査の対応をすることもできるのですが、同時に7名も来られるとどうにもなりません。その時は、何のごまかしもできませんでした。


顧客監査の具体的事例3(監査前だけ現場をきれいにする会社)

どこの会社でもそうですが、顧客訪問や社内の重役訪問前にだけ現場をきれいにします。いろいろな国で仕事をしてきましたが、国を問わず普段から準備できている現場は2割以下の印象です。

製造業で仕事をしたことがない人にはイメージしにくいかもしれませんが、生産現場には部品が落ちていたり、不良品・保留品がそこら中に置かれていたりします。いつのものかもわからない不明品が存在することは極めて異常です。また、部品が落下しているような現場では、そこで生産される製品の品質が疑われてしまいます。

ある工場では、スタッフが見学当日の朝数時間早く出社して最終確認することもありました。※なぜかというと、前日にきれいな状態にしておいても、前日夜勤のシフトで台無しにされる可能性があるからです。

私は1日に何度も現場を回るタイプの人間で、普段からできていないことは本番でもできないと考えるタイプなので、毎日のように現場の責任者には問題点を指摘していました。ただ、人間はどうしてもテスト前にならないと勉強できないようです。

顧客監査の具体的事例4(毎月訪問してくる顧客)

顧客によっては、毎月のように訪問してくる顧客もいました。
例えば、新規取引先の場合などであれば信頼が少ないので、定期的に視察しておいて問題を未然に予防するなどの仕事のやり方は考えられます。あるいは、自社方針を教育して取引先のレベルを高めるといった作業です。

ところが、長期の取引がある顧客でも、毎月のように遠方から訪問してくる担当者もいました。いわゆる不要な出張と思えるような出張です。顧客からすれば、下請けの取引先への出張は接待される側で、その取引先で問題が起きていなければ気分も楽なものです。

そんな顧客の担当者ですが、実は生産技術者からすれば少し迷惑な存在でした。エンジニアが直接相手をするわけではないのですが、何度も何度も現場を見られると徐々に内情が分かってきます。毎月数日という単位で滞在されると、社内の人間と変わらないレベルで現場の状況が分かるようになります。

作業員の入れ替わり頻度、帳票への記録レベル、作業員の理解度、現場の不良率、設備故障時間、設備故障時の対応者のスキルなどです。こうなってくると、本番の監査でごまかしがきかなくなります。

顧客監査の具体的事例5(部材の準備不足)

監査当日に生産するための部材がそろっていないという“おバカ”な事例です。
信じられないような事例ですが、現実に起きました。簡単に背景を説明すると、量産設備の完成度が低く、顧客訪問までに何度もトライアルをして設備の完成度を高めようと活動していました。

ところが、誰も部材の在庫管理をしていなかったようで、顧客訪問数日前にその事実に気が付いたようです。その後、輸送中の部材の通関処理を含めて納入を急かして、何とか顧客訪問当日に納入される目処が立ちました。

当日午後になり、部材が納品されたかと思うと不純物付着により、追加で部品清掃が必要になりました。この時点ですでに午後3時でした。顧客を朝から待たせたあげく、状況がさらに遅延しようとしているのです。

設備のまえに大勢の人溜まりができていましたが、時間だけが過ぎていきました。私が直接かかわっていたわけではないのですが、間接的に関与していたため状況を見ながら1つの提案をしました。
不良品でもよいので、出荷しないことを前提に動作確認だけでもするべき」 というものです。
わざわざ遠方から監査に来た顧客に対して、生産ラインが全く動いていない状態で帰らせることは、受験に行って回答用紙に何も書かないようなものです。
部材が無駄になるかもしれませんが、顧客に何も見せないということは失礼極まりない行為です。私が顧客であれば、怒って帰ります。


以上、生産技術エンジニアが経験した顧客監査事例の紹介でした。

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