200415 生産技術者が認識しておくべき機密情報の取り扱い
今回は「生産技術者が認識しておくべき機密情報の取り扱い」というテーマで話をします。直接仕事に関係することではないですが、社会人として当然のように理解して当然のように行動するべき事柄であっても、まわりではできていない場面が何度もありましたので、今回は3件ほど悪い事例を紹介します。
生産技術者が取り扱う機密情報とは
一般的な機密情報といえば、企業買収に関わる情報や業績に関わるようなインサイダー情報、特許に関わるような技術情報、顧客情報、公開されていない製品価格情報、主要取引先の情報などです。簡単にいえば、業務上で知りえた会社内部に関する情報のことです。
生産技術エンジニアで関係しそうな部分は、製品図面、設備図面、生産工程に関する情報(設備投資、工程設計、管理項目など)、材料価格や製品売価などです。
こういった情報が普段の生活で役に立つようなこともありませんし、競合に情報を流すようなスパイ活動をする人もいないはずです。
社内の情報を外部に出すことも倫理的には禁止されていますし、取引先の情報を外部に展開することも許されるべきではありません。ところが、会社員をしているとそういった情報を意識的に逆手に取って仕事をしている場合も見られます。
エンジニアレベルでの機密情報の取り扱い失敗事例
生産技術エンジニアをしていると量産設備の発注をすることがあります。
完成した設備は長期にわたって使用するため、機械図面、電気配線図面、内部プログラム、部品リストなどは設備製作会社が準備して納品します。
契約形態によりますが、設備の所有者は自社になります。したがって設備の運用上で必要な情報は設備製作会社から提供してもらう必要があります。
ところが、運用上必要のない情報(例えば、機械図面のCADファイル、配線図のCADファイルなど)は提供されません。通常は印刷物やpdfファイルが提供されます。
※初期の契約で提出を要求していれば、CADファイルを入手することも可能です。
あくまで保守・管理に必要な情報や協力であれば設備製作会社が対応するというのが一般的です。
一般教養を持っているエンジニアであれば、ここまでは難なく理解できる内容だと思います。しかしながら、たまに変な事例があります。A社で製作した設備の構造や図面をB社に展開して、同じ構造で設備を作ってほしいという依頼をするエンジニアがいます。設備製作会社に細かい設備の説明をするときに、過去の類似設備(他社製)の図面をメールで送付するエンジニアもいます。
本人は悪いことをしているという意識がないのだと思いますが、これは完全にアウトです。
設備製作会社A社にとっては、競合となる同じ業界の他社(B社)に自社の情報を漏洩されているのです。ありえません。
マネージメントレベルでの機密情報の取り扱い失敗事例
つづいてマネージメント層の話です。
エンジニアレベルの事例であれば、単純に教養や知識のない人物の失敗談とすることもできますが、マネージメントレベルでも同じような事例があります。こうなると、完全に悪意があると認めざるをえません。
ルール上は反則と思えるような行為ですが、意外にも一般企業はこういうものです。たまに大企業の不祥事がメディアで報道されているとおりです。残念ながら、どこの世界にも醜い行為に手を出す人物はいるものです。
生産技術部の場合で少し事例を紹介すると、設備製作会社を利用して競合他社の工法に関する情報を入手するような場合です。通常、生産ラインに関しては社外から情報を入手するようなことはできません。ところが、その会社に設備を納入している会社であれば生産工程や工法を知っています。それを悪用するマネージャーもいたりします。
他にも悪い事例を紹介すると、新しい設備製作会社(業界でそれなりに有名な会社C社とします)に対して、将来的な取引の話を持ち掛けます。打ち合わせや構想のやり取りをして、後は発注するだけの段階になって結局発注しない場合などもあります。あるいは、将来の生産ラインを発注することを約束するかわりに、1本目の生産ラインを安く発注しておいて2本目以降は結局発注しない場合です。そして、2本目以降の生産ラインを、付き合いのある設備製作会社に安く発注し、1本目のC社の設備をコピーさせるようなやり方です。
戦略といえばそれまでかもしれませんが、これは詐欺に近い行為で信頼を失います。短期的には利益を享受できるかもしれませんが、長期的には自滅する行為です。
自社情報も土産にして競合他社に転職する事例
なかにはこんな事例もありました。
自社で使用している図面や帳票などを持って競合他社に転職するのです。例えば、製品図面やコントロールプランなどは業務上必要な情報なので、社員であればだれでもアクセスできます。
離職率の高い地域・会社では人の入れ替わりが多く、新しく入った人物が数年して競合に引き抜かれるようなこともあります。ただ会社を辞めるだけならよいのですが、自分が作ったわけでもない図面や帳票を持ち出すのです。これも完全にアウトです。
こんなことをしても訴えられて大きな損害賠償を請求されるだけです。
さらに、そんな社員を採用する会社に就職したところで、いずれ解雇されるのがオチです。“この人物は信用できない”という証明を入り口の時点でやってしまっていることに本人は気付かないのです。そんな人物を採用したところで、今度は自社の情報が外部に持ち出されるだけです。そんなことは採用側も理解しています。
以上、簡単ですが生産技術者が注意すべき機密情報について紹介しました。
自分が取り扱う情報については、十分注意してください。悪用すれば短期的には利益が得られるかもしれませんが、他人を騙すような行為をすればいずれ淘汰され、長期的には自分が被害を受けることになります。
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