200416 生産技術をやっていて感じる量産性のない製品設計の正体

今回は「生産技術をやっていて感じる量産性のない製品設計の正体」というテーマで話をします。生産技術をしていると組みにくい製品構造や量産工程を目にすることがあります。今回は量産工程に適していない製品構造の事例とその背景を紹介します。

量産性のない製品設計1 接着剤を使用した工程

1つ目は加熱時間のかかる接着剤です。
別記事でも紹介していますが、接着剤を塗布して一定時間加熱硬化させて冷却させて・・・という製品構造は量産ラインが長くなり、バッチ処理の工程になります。接着剤の硬化に要する時間にもよりますが、製品の生産を開始する前に仕掛を準備しておく必要があります。
例えば加熱硬化に1時間かかるとすると、その工程の完成品を少なくとも1時間分は確保しておかないとライン全体として物が流れません。

こんな事例もあります。精密部品の信号異常を検出する目的で、高温加熱した炉に製品を投入して、そのときに動作異常が起きないかどうかをオシロスコープの波形で検証するといった量産工程です。まるで実験室のような量産ラインでした。もともと初期の工程設計では含まれていませんでしたが、顧客や品質保証部とのやりとりで量産開始後に導入することになった検査です。
いずれにしても、量産工程とは思えないような加熱時間と冷却時間がかかります。

他の工程が20~30秒ほどのサイクルで流れるのに対し、加熱工程だけサイクルタイムのバランスが悪くなるため、作り溜めをしなくてはならなくなります。

量産性のない製品設計2 部品の組み立て方向に統一感がない

2つ目は部品の組付け方向に統一感がない構造です。
工程1 -- >工程2-- >工程3 -- >工程4 と進んでいくときの理想は、製品を同じ姿勢で搬送することです。製品を持ちなおしたり、上下逆さにしながら工程を流すような製品構造・工程設計は理想的ではありません。
製品設計者のセンスの問題なのか、材料費の面でメリットがあったのだろうかと思いますが、製造現場からすれば作りにくい製品構造です。

生産工程上での理想的な製品構造は同じ向きから組み立てることです。 プレス金型の動作をイメージしてもらうとわかりやすいと思います。同じ姿勢で製品を搬送しながら、組立・検査工程を流していくイメージです。


量産性のない製品設計3 人の手作業を必要とする工程

3つ目は人の作業を必要とする工程です。
例えば、銅線などの末線処理、樹脂成型品のバリ取り、ダイカスト部品のX線検査などです。
少し説明すると、銅線の末線処理は線径にもよりますが、銅線位置が不安定になるため自動化しにくい作業です。樹脂製品のバリ取りも本来は不要ですが、まれに樹脂成型に適していないような構造の部品を樹脂成型するときや金型のメンテナンスを怠っている場合はバリ取り作業が発生しています。
ダイカスト部品のX線検査も同様です。本来は全数検査などするような工程ではありませんが、要求仕様に対して内部に巣が発生しやすい構造のダイカスト製品では、全数X線検査していました。

こういった作業は人が見て判断しながら良し悪しを決める必要があるため、なかなか自動化、定量化しにくい工程です。

量産性のない製品設計4 組付け調整が必要な構造

4つ目は組付け調整です。
例えば2つの部品Aと部品Bを組み付けるとします。通常であれば、組み合わせなど気にせず組み付けます。ところが、部品Aと部品Bの該当寸法を測定したうえで、組付けが必要な場合がありました。例えば、ジュースのペットボトルのキャップとボトルの寸法を測定した後で、ジュースのキャップを締めるような作業です。簡単に言えば設計不良です。
設計側の目的は、本来の性能を出すためにはどうしても組付け工程で寸法調整しながら組み立てる必要があるようです。現場からすればいい迷惑です。そんな変な製品を何年も生産し続けないといけないのです。


量産性のない製品設計の背景

4つほど量産性のない製品構造や工程を紹介しました。
これらのほとんどは上流工程である製品開発部や生産技術の仕事の出来で決まります。ところが、実は一定の割合で顧客が関与していることもあります。社内の見通しが立つようになると徐々にこのあたりの背景も見えてきます。

自動車業界では顧客要求事項を優先するという考えがあります。何でも顧客の言うことを聞けというわけではないですが、たまに変な要求をしてくる顧客もいます。 明らかに初期段階で問題になることが想定できていたようなことでも、そのままプロジェクトが進んでいく場合もあります。会社の方針にもよりますが、取引先との関係で立場が弱い会社の製品設計部や生産技術部は、なし崩し的にその仕様を受けて仕事をしなくてはならない場合があります。 製造現場に仕事が下りてきた段階では、そういった細かい背景が見えにくくなっているため、「なんでこんな設計で・・・」と思うようなことがあります。



以上、簡単ですが量産性のない製品設計の正体について紹介しました。



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