200726 自社オリジナル仕様機器の強みと技術者の悩み

今回は「自社オリジナル仕様機器の強みと技術者の悩み」というテーマで話をします。以前、巻き線機メーカーの強みというテーマで独自開発のメリットを紹介しましたが、今回は自社開発の強みと現状について詳しく紹介します。
話の前提として、社内の生産ラインで使用する機器を自社開発したとします。例えば、自社開発のサーボプレスを利用したプレス機や自社開発のアルゴリズムを利用した検査装置を社内の量産工程に利用している場合です。

自社オリジナル仕様部品の強み

まず自社開発のメリットを紹介します。
独自開発品は市場に出回っていないため、競合他社にコピーされないというメリットがあります。また、社内の量産ラインで使用する場合は外部に情報が洩れません。市場で販売する場合はともかく、社内で使用するだけならば社内の人間しかその情報を知りえないからです。開発自体も時間がかかるため、仮に概要を知っていてもすぐに真似できるものでもありません。

会社全体で考えれば、独自のノウハウは大きな強みです。特許を申請することもできます。
※ただし、特許を申請すると外部に情報を提供することになりますが。
ということで、会社全体で見れば自社オリジナル部品を持つべきです。

実務レベルで見た時の技術者の悩み

次に実務レベルで見ていきます。
マクロな視点で見ればメリットの方が大きいのですが、現場レベルでは弊害もあります。

自社でしか使えない技術

1つ目が自社でしか使えないということです。 その会社に所属する限りは、そのメリットを享受することができますが、他社では通用しません。開発したエンジニアであれば、他社でも同様の仕事ぶりを再現することができます。ところが、ただのユーザーであればその会社でしか役に立たない知識です。

問い合わせ窓口が不明

開発された時期にもよりますが、グループ会社、担当者の異動、など社内の技術資料の管理が杜撰な場合がほとんどです。よほどのベテラン社員であれば、内部事情や背景を知っているのですが、ほとんどの人はそうではありません。
つまり、社外製品に比較して問い合わせコストが高いという事実があります。市販品ならば電話一本で問い合わせできますが、社内の場合は窓口を探すことから始まります。(場合によっては、社内の人物は立場を利用してマウントを取ってくる場合もあります。こうなってくると社外に問い合わせる方がよっぽど楽です。。。)
少し意外かもしれませんが、対外的に出ていかない技術に対しての窓口はない場合がほとんどです。

私個人の経験で話をすると、自分は(長く在籍しているおかげで)知っている場合でも、適当な技術資料が存在しない場合が一般的でした。他人に説明するときに簡易資料を準備していました。
「生産ラインに使用される機器ならば、少なくとも技術者は内容を理解しているだろう」そう考えるかもしれませんが、意外とそうでもありません。「リセットボタンを押す」程度のことしかできない技術者は大勢いました。 一方で深い部分に関して調べようとしても、上述の窓口の問題があるので断念してしまう人が多いのも事実です。

会社の技術レベルと現場の技術レベルの不一致

これも残念な事実ですが、あえて記載します。
自社オリジナル製品の開発者は優れているのですが、それを利用するだけの人は必ずしも技術的に優れているわけではないということです。何年も同じ機器を使用しているとただのサービスマンレベルの人材しかいない場合もあります。
別の表現をすると、過去の生産ラインが優れているからといって現在の所属している技術者のレベルが高いわけではないということです。

マネージメントの視点で見た自社オリジナル機器の扱い方

ネガティブな面を紹介しましたが、自社オリジナル機器については持つべきです。
会社全体で考えれば、大きな優位性があります。現場で運用しにくいからといって市販品を推薦するわけではありません。 問題は、自社オリジナル部品の詳細が正しく認識・共有されていないことです。
社内で勉強会を開催するか、専任を準備して必要な情報と教育を提供すれば組織にとって大変価値のあるものになります。 このあたりは中間管理職がうまくハンドリングしなくてはなりません。

実務レベルの技術者については、自社オリジナル仕様部品の詳細を理解することです。表面的な知識ではなく、内部構造の詳細です。深い部分を理解すれば、社外でも通用する技術となって自分の肥やしになります。



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