200606 生産技術者の視点で見た巻き線機メーカーの強み

今回は「生産技術者の視点で見た巻き線機メーカーの強み」というテーマで話をします。生産技術エンジニアをしていると量産設備を扱う機会がたくさんあります。なかでも少し特殊な設備である巻き線機について紹介します。

巻き線機とは

巻き線機とは銅線を部品に巻き付けるために使用する設備です。他の設備との大きな違いは、取り扱う部品(銅線)が剛体ではないということです。剛体ではない不安定な形状をした部品を組み付けるために、特有のノウハウが存在します。

取り扱う銅線の線径や巻き線方式によっても巻き方は様々です。電子部品に使用されるような線径の細い巻き線機や自動車部品に使用されるような線径の太い巻き線などもあります。取り扱う製品の巻き線仕様によっても、ノズル巻き、フライヤ巻き、分割コア方式、インサータ方式、、、、など要求仕様によって多種多様な巻き線方式が存在します。

ちなみに巻き線機業界では、日本の巻き線機メーカーの実力が世界をリードしている印象です。製造業界では世界相手に健闘している数少ない日本の産業といえます。


巻き線需要について

電磁気を利用する製品には必ずコイルが搭載されていることから、巻き線機の需要は電子部品や電動化の需要とともに今後の成長も期待できます。参考までに、銅の市況価格の推移を添付します。具体的な製品群をあげると、自動車用電装品、産業用モータ、家庭用電化製品、電力用機器、情報通信機器などの分野です。


引用元)世界経済ネタ帳 https://ecodb.net/commodity/copper.html


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https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2020-07-19/QBQWALDWX2PX01


巻き線機メーカーの技術的な強み

巻き線機自体の需要は期待できそうですが、一般設備と違って巻き線機には高い参入障壁が存在します。私が考える巻き線機メーカーの強みは、「テンションコントロール」、「高速サーボ制御技術」、「被膜剥離技術」の3つです

テンションコントロール

先述した通り、銅線は剛体ではありません。不安定な形状をしているため、精密に巻き付けをしようとすると銅線に一定のテンションをかけた状態で巻き付け動作をする必要があります。

テンションが弱すぎると巻き乱れを起こして、巻き終わった形状が不安定になってしまいます。テンションが強すぎると銅線が伸びてしまい、銅線抵抗・磁気特性が不安定になります。このテンションコントロールが特殊な技術であり、一般の設備メーカーでは簡単にまねをすることができませんし、巻き線機メーカはテンションコントローラを自社開発しています。

高速サーボ技術

巻き線機に求められる要求事項の1つにサイクルタイムがあります。巻き線品質が安定していることが大前提ですが、巻き線動作は他の作業と異なり時間がかかります。圧入やカシメ動作が5~10秒で動作完了できるのに対し、巻き線という作業は1分以上の単位で時間がかかります。通常の量産工程で考えた時に他工程とのバランスが悪く、巻き線工程のサイクルタイムを短縮することは生産性を高める大きな要因になります。

不安定な剛体である銅線を高速で巻き付けるという作業は、高度なサーボ制御技術を必要とします。XYZ方向と回転動作を含む複数軸の動作を同時に高速制御することをイメージしてもらえば、難易度が分かると思います。

被膜剥離

最後に被膜剥離技術です。 銅線を巻き付けたあとに銅線被覆を剥離する仕事があります。これは、コイルに電流を流すために後工程で端子と接合するための電気導通部を確保するためです(※被膜剥離が不要な場合もあります)。動作自体は簡単ですが、安定稼働するのは簡単ではありません。 失敗事例を挙げると、刃物が滑ってしまいうまく剥離できない、剥離カッターの耐久性がない、剥離カスを集塵できない、不純物が残ってしまい通常の巻き線部分に傷がつく、などです。


以上の3つの項目を巻き線機メーカーは自社で独自開発しています。巻き線機メーカーの強みです。市販品を購入すれば同じような巻き線機ができるというようなことはなく、他の設備メーカーが参入しにくい理由になっています。

巻き線機メーカーの独自開発メリットと生産技術者にとっての悩み

コア技術を独自開発することで巻き線機メーカーの強みであることは事実ですが、一方で巻き線機のユーザーである現場レベルの生産技術者にとっては悩みでもあります。

他の設備と違った特別な操作を必要とするため、巻き線機専用で技術習得しなくてはなりません。PLC制御やサーボ制御が全く異なるため、他の設備とは異色を放つことになります。

実は、この技術習得のハードルが巻き線機メーカーの強みでもあります。新規顧客に参入できれば、操作性の観点でリピート客が増えやすいということです。わざわざ苦労して習得したのに、新たに技術習得の必要な別のメーカーの巻き線機を購入したくないということです。また、サイクルタイムが長いことから複数台売れるというメリットもあります。



以上、「巻き線機メーカーの強み」というテーマで話をしました。

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