201102 設備仕様書を見て感じる日本の仕事のやり方と参入障壁

今回は「設備仕様書を見て感じる日本の仕事のやり方と参入障壁」というテーマで話をしたいと思います。

仕事上の共通言語が育っていない

「共通言語が成立していない」まさにこの一言につきます。
同じ業界、同じ職業、同じ言語(日本語)を持つ者同士でうまくコミュニケーションができない場合があります。 例えば、自動車業界はドキュメントに基づいて仕事をする業界です。業務プロセスから設計・工程変更履歴、図面改訂に至るまでドキュメントに基づいて仕事をします。そんな業界であっても取引先(主に下請け)との間では、あいまいな仕事のやり方が見られます。本人たちにそのつもりはないのですが、ドキュメントを見ると本人や過去の取引先しか理解できない内容が多々存在します。

製品図面や設備図面は「図面」という共通言語が存在します。お互いに図面を見れば理解できます。ところがその図面に至るまでの「仕様」面では、共通言語が成立しない場合が散見されます。 私は生産技術を担当していたので、よく設備仕様書を作成したり、他人の仕様書を拝見したりしていました。たくさんの拠点でたくさんの仕様書を見てきましたが、軒並み不合格です。 合格3割、不合格7割くらいの割合です。

わかりにくい仕様書とその事実に気づかない本人たち

いくつか悪い例を挙げると次のようなものです。

  • 言葉だけで図示がない(どこ部分の何の記載なのか本人以外わからない)
  • 必要な情報が不足している(規格の管理幅がない、機器の型式情報がないので他人が理解できない)
  • 抽象的な情報を記載している(「○○設備の構造と同等のこと」などという記載で、その設備を知らない人には理解不能)

本人は十分な情報を盛り込んでいるつもりなのですが、客観的に見ると理解しにくい仕様書なのです。
ただ、これでも仕様書が存在するだけまだマシです。さらに悲惨なのが、そもそも仕様書自体がない場合です。担当者が横着なのか、そういう仕事のやり方をしてきたのか、どういう理由があってそうなっているの変わりませんが、仕様書自体が存在しないのです。

ではどうするかというと、口頭レベルの打ち合わせや議事録頼みです。当然後で追加で情報が必要になってくるので、メールや電話で都度対応するといったやり方です。はっきり言って、こんな仕事のやり方ではよいものはできませんし、技術情報も社内に残りません。ところが、大手企業でもこんなやり方をしている会社は多く存在します。

あいまいな仕様書の弊害とメリット

あいまいな仕様のメリットから説明すると、新規取引先が参入しにくいことです。
経験者しか仕様を理解できないため、新しい取引先が参入するうえでは障壁になります。ただし、これは逆にデメリットでもあります。既存の取引先のほかに新しい取引先(下請け)を探すときに、ゼロから仕様を教育しなくてはなりません。ところが、そもそも仕様書もないので、教育もうまくいかず、想定した以上に無駄なリソースを投入することになります。

良く言えば「ケーレツ経営」です。悪く言えば「外部から分断されたガラパゴス化」です。
例えば、海外の取引先と仕事を想定すると不可能です。言葉の壁もあるうえに「あいまいさ」があるので、コミュニケーション自体が不可能です。言った/言わないの話になって後でもめることが目に見えています。こんなレベルの低い仕事のやり方では、生産性の高い仕事などできるわけがありません。


以前こんなことがありました。
中国の取引先と仕事をしていた時のことです。日本からの設備仕様を取引先の通訳が中国語に翻訳して中国で設備を製作していました。たまたま出張した時に私にその通訳の女性が言いました。

設備仕様書の日本語が難しいです。
その通訳者のレベルは高かったので、私はこう返答しました。
「日本語の問題ではないですよ。その仕様書に記載されている文章のレベルが低いのです。製品構造・生産工程・設備仕様を理解している私が見ても理解しにくい内容がたくさんあるので、背景を理解していない一般の人では日本人でも理解できませんよ」

同じ業界にいる人間でも内容を理解できないのです。これは言葉の問題ではなく、仕事のやり方の問題です。


日本語で守られている日本企業と海外で苦労する日本企業

そんな状況なので、ケーレツ会社にとっては独自のポジションを維持しやすい状況です。ところが、海外企業とのやり取りなどうまくいくはずがなく、どこかで無理をしなければ海外に進出して拡大するようなことは不可能に思えます。

ありがちなのが、すでに出来上がった他社の設備をみせて、「これと同じ仕様で製作してくれ」という仕事のやり方です。いうのは簡単ですが、こんな仕事のやり方をしていたのではうまくいくわけもないし、他社からの信頼も失います。 自分たち(新規取引先)にコピーさせたということは、いつかは自分たちが作った設備も別の取引先にコピーされる危険があるということです。

日本の製造業界について過去の経験のままに記載しましたが、他国の仕様が優れているかというと、私はそうは思いません。少なくとも私がかかわった会社では、そこまで優れていると感じる海外の取引先はありませんでした。

日本ではケーレツを重視するような仕事のやり方があります。優れている部分、やりやすい部分もあるかもしれませんが、21世紀の仕事のやり方ではないですし、昔の慣習のままで存続できる保証もありません。過去のやり方を見直し、小さな改善を積み重ねて日本の外でも仕事ができる状態にしておかなくては明るい未来は来ないように思えます。

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