201025 日本の定年延長に否定的な理由

今回は「日本の定年延長に否定的な理由」というテーマで話をしたいと思います。 政府は定年延長70歳定年)を企業の努力義務としていますが、これは最終的な義務を想定した制度導入になると私はみています。一定の移行期間を踏まえたうえで、世間の反応を探りながら最終的には義務化してしまおうという企みだと考えています。

私は専門家ではありませんが、この制度には否定的です。雇用維持という点ではメリットはあるかもしれませんが、全体としてはデメリットの方が多いと考えています。以下それぞれの視点で考えてみます。

1.政府の視点(私の予想)

これはあくまで私の想像ですが、政府の目的は「年金の削減」と「財政の改善」だと考えています。その達成手段として、年金の支給金額や条件を厳しくしたいのですが、そのままでは高齢者世帯の猛反発を食らうことが予想されます。

国全体として必要な改革なのだからそのまま進めてもらえばよいのですが、どうも年金削減だけを取り上げることができず、年金が受け取れない期間の雇用を保証することで世間に納得してもらうという理屈を打ち出しているのです。

政府としては年金を削減することができ、高齢者も年期に変わる所得を受けることができます。一方で被害を被るのは企業です。すでに誰が見ても破綻しているのだから、年金制度だけを単独で見直せばよいのですが、それができないようです。 政府が作るわけのわからない制度のおかげで、会社側は変な規制の影響を受けてしまいます。変な話です。

2.定年直前社員の視点

次に定年近い社員の視点で考えてみます。
あと数年で終わりが見えていた会社員人生を延長することができて幸せに感じる人もいれば、逆に大きな失望を持っているかもしれません。仕事がしたい人は仕事生活を継続できるようになって、選択肢は増えます。

一方、年金制度を信じて何十年もストレスに耐えて働いてきた人たちにとっては期待を裏切られた印象でしょう。60歳でリタイヤしても年金はもらえず、70歳まで社内に残ったとしても居心地の良いものではないでしょう。

3.会社側の視点

続いて会社側の視点です。
世間の報道を見れば理解できる通り、中年社員の希望退職者を募集しています。会社の経営状態や事業内容によっては組織の立て直しを実行しなければ、事業経営自体が成り立たなくなるのです。経団連会長やトヨタ社長がコメントしている通り、「終身雇用は厳しい」のです。終身雇用制度がある日本と比較して、解雇や採用を繰り返して組織改革を実施している海外企業との実力の差は明らかです。

一部の実力のある高齢社員を除いて、会社側は「給料だけが高い高齢社員」に早く会社を辞めてもらいたいと思っています。経験を生かして若手の指導に当たってくれる少数の社員もいれば、定年まで会社にしがみついて立場や勤務歴を利用して職場内の仕事をやりにくくする社員もいます。

そんな経営者の考え方と逆行するような「定年延長」を政府が打ち出していることも、現場レベルとの政治家の大きな認識の差を感じます。

4.一般従業員の視点

続いて一般従業員の視点です。
20代の若手社員は終身雇用や年功序列などに最初からは期待していない人が多いと思います。30~40代で中間管理職を目指して仕事をしていた人にとっては、目の上のタンコブにあたる年上世代がさらに10年長く居座る可能性が出てきたことで、自分たちの出世の可能性がさらに減ることになります。 専門性やスキルのある人ならともかく、自分磨きを怠った社員は転職もできないうえに、勤労年数が10年延長したことに大きな失望を覚えるはずです。

すでに昔の仕組みが破綻していることは明らかです。現実世界と乖離した古い仕組みを維持し続けることが間違いなのです。政府の方針を信じたところで、この先また変更される可能性も十分にあり得ます。VUCAと呼ばれるよう現代では不確実性が多く、何か(会社や政府など)に依存するということはあまり賢明ではありません。

世の中がどうなっても対応できる適応力をつけて、会社や政府に依存しない生き方を身につけるしかないのです。今からでも遅くはありません。中長期の計画を立てて、手遅れになる前に生きていく手段を獲得するべきなのです。

5.人手不足対策の移民受け入れ政策との関連性

もう1つ別の視点で考えてみます。
政府は人手不足を理由に移民受け入れ方針を打ち出しています。別記事で記載している通り、この移民政策にも私は懐疑的です。人手不足を主張するのであれば、定年を60歳に維持したままで、60歳以上の定年退職者に流動的に仕事をしてもらう方が、人手不足解消という点では効果的だと考えています。

定年退職者の多くはフルタイムでの仕事など望んでいないはずです。海外からの安い労働力に頼るのではなく、60~70までの年齢のリソースを有効活用すれば全体としてはうまく機能するように思えます。

ところが、政府は人材の流動性を阻害するような法案を出しています。雇用は守られるかもしれませんが、「もたれあい」の仕事のやり方が続き、さらに日本企業の体力・競争力が低下していくような気がしています。

6.定年という概念に対して私個人の考え

私はすでに新卒で入社した会社を退職しています。もともと一生同じ会社で働くつもりもありませんでしたし、現実的ではないと考えています。古い制度の延長で定年年齢を何歳にするかというのではなく、定年自体を廃止してしまった方がよいと考えています。あるいは定年を40歳に設定するのも1つの手段だと考えています。

別記事でも紹介している通り、40歳で自分のキャリアを見直し、第2の人生を始めるのです(同じキャリアを続けたい人はもちろん続ければよいと思います)。過去のしがらみをいったん捨てて、40歳で学びなおす時間を作って、新しいことに挑戦するのです。

仕事においてもそうですが、人生に対しても時間的に余裕のある段階であればまだ取り返しは可能です。私は人生においては40歳が自分の人生を見直すタイミングだと考えています。20年学び、20年社会経験を積めば、社会の仕組みや自分が何をやりたいのか、大体イメージが固まってくるはずです。 そのまま今の暮らしを継続するのもよいですし、新しいことに挑戦するのもありです。やってみて違うと思えば、また別のことに挑戦すればよいし、もとの仕事に戻るという選択肢もあります。



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