210401 日本のプログラミング教育はうまくいくはずがない
今回は「日本のプログラミング教育はうまくいくはずがない」というテーマで話をします。
OECDによる国別の学力比較でも地位を落としつつあり、アメリカへの留学する日本人学生数も年々減少傾向です。
教育面で成功しているとは言えない日本の教育環境でのプログラミング学習について懸念点を取り上げます。
【目次】
- 日本のプログラミング教育がうまくいかないと思う理由
- 理由1)教師の質
- 理由2)英語教育での過去実績
- 理由3)プログラミング言語の変化の速さ
- 理由4)プログラマーという職業に対する待遇
- 理由5)学生のモチベーション
- IT人材を輩出するために日本がやるべきこと
日本のプログラミング教育がうまくいかないと思う理由
日本の教育環境について最近プログラミング教育に関する議論がされています。小学生からプログラミング学習を教育科目に追加したり、大学入試のセンター試験に情報という科目を追加するなど議論されています。ところが、私はこの教育制度の効果がどれほどになるか懐疑的です。
理由1)教師の質
1つ目の理由は教師の質です。
プログラム経験のない人物がプログラミングを教えたところで、英語が話せない教師が英語を教えるようなものです。これで生徒のプログラミングスキルが身につくはずがありません。
また教師という職業自体に人気がなくなっています。教員を取り巻く労働環境も魅力的でないことに加えて、給料も魅力的ではありません。応募者人数も年々低下傾向になっています。そんな状況で質の高い教育を提供することが可能になるとはとても思えないのです。
文部省データ) 教員採用試験の実施状況
理由2)英語教育での過去実績
2つ目の理由は、過去の実績からです。
かつて英会話を目指して英語を必修項目に入れています。英語教育を受けて育った日本人の英会話レベルはどうでしょうか。何もしないよりはマシだったかもしれませんが、流暢に英語でコミュニケーションができる人材というのは極めて低い比率になっています。英語の基礎教育を受けた30~40代の人間のどれだけの人材が英語でコミュニケーション取れるでしょうか?
同じことがプログラミング学習にも当てはまると考えています。「しないよりはマシ」レベルにはなるかもしれませんが、使いこなせるレベルになる人材をどれだけ排出できるかという点については甚だ疑問です。
理由3)プログラミング言語の変化の速さ
3つの理由はプログラミングの世界は変化が非常に早い産業であるということです。
10年前のプログラミング学習などが最先端であり続けることはないのです。Windowsが定期的にアップデートされるように、プログラミングコードのバージョンやフレームワークも徐々にアップデートされています。つまり学生が社会に出る時には、学習内容はすでに古くなっているのです。
理由4)プログラマーという職業に対する待遇
4つ目の理由はプログラマーという職業に対する待遇です。
数十年前は、「有名大学に入って有名企業に就職する」というのが成功モデルとされていました。ところが、既に終身雇用は崩壊しており、大企業に入ったからといって生涯安泰というわけでもありません。年功序列で給料が上がっていくわけでもなく、大企業の魅力はほとんどはないのです。
かといってプログラミングのIT人材に対して魅力的な給与水準を提供できるかというと、必ずしもそうではありません。アメリカでは年収2000~3000万円とされているIT 人材ですが、日本ではよくて1000万円です。ところが1000万円で豊かな暮らしが送れるかというと、必ずしもそうではありません。
つまり、学生がプログラミングを勉強して、 豊かになるというモチベーションは日本では起こりにくいのです。
理由5)学生のモチベーション
5つ目の理由は本人のモチベーションです。
本人がやりたいと思わなければ能力を伸ばすことはできません。私個人の事例を話をすると私は大学の時にプログラミングを学んでいました。気分よく学んだわけではなくて必修科目だったので、受講していました。プログラミング言語はフォートランとC 言語でした。これが何に使われるのか、何に応用できるのか、まったく内容も背景も理解せずにただ詰め込み式で勉強したの覚えています。
それからプログラミングの出番が来ることは全くなかったのですが、大学卒業して10年ほど経った時に仕事の効率化をしたいと思ってExcel マクロを学びました。その後、情報を発信したいと思ってHTML やPHP を学びました。このように目的意識を持っていると能力を伸ばすことは可能です。生徒の能力を高めるには本人のモチベーションを高める必要があるということです。
IT人材を輩出するために日本がやるべきこと
プログラミング産業を強化して IT 人材を輩出するためには、2つやらなければいけないことがあると考えています。1つ目は日本のIT 産業を拡大すること。2つ目が教育改革をすることです。特に2つ目の教育改革は大きな課題だと感じています。一番の原因は文部科学省の体質にあると考えています。
コロナの感染拡大により学生の授業に影響が出た時に、大学9月入学の議論がなされました。ところが、この時も色々理由をつけて改革することができませんでした。既存体制に執着する古い体質のおかげで教育産業は大昔のやり方から脱却できていません。オンライン授業を取り組んでいる学校は海外に比べてまだまだ少なく、教育の面で大きな国際格差を発生させています。
また、アメリカの大学の事例で言えば留学生が大学に落とす授業料は毎年5兆円規模と言われています。海外からこれだけの規模のお金を国内に落としてくれているような産業は観光業(2017年度の外国人観光客の消費額4.4兆円)くらいです。お金を落とすことが目的ではないのですが、要するに日本の大学は海外の学生にとって魅力が少ないということです。結果的に日本の大学の質が下がっているということです。お金が集まらないので、投資もできずジリ貧になっていくという構造です。これでは学生に質の高い教育を提供できないので、人材も育たないという負のサイクルです。
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