201119 設備メーカーが近郊にある場合のメリットとデメリット
今回は「設備メーカーが近郊にある場合のメリットとデメリット」を紹介します。
会社の所在地は取引をする上で大きな制約になります。IT企業と違って、製造業では拠点を構えることが前提になり、物理的な距離の影響を受けます。
グローバル化した昨今では日本国内だけでなく海外の会社との取引もあります。生産技術者にとっては優れた遠方の設備メーカーと取引をしたいだろうし、営業エリアを拡大して売り上げを伸ばそうとする設備メーカーは遠方の取引先との取引も必要になってきます。そんな中で生産技術者にとっての地理的なメリットとデメリットを紹介します。
取引先が近郊にある方が全体的なメリットが大きいのですが、デメリットも存在します。
設備メーカーが近くにあるメリット
素早い対応ができる
地理的な距離が近い、時間的な距離が近い場合は何をするにもやりやすさはあります。ちょっとした打ち合わせや問題発生時の対応が迅速です。
また、設備メーカー側にとっても納入先が近くにあるとアフターサービスがしやすいというメリットもあります。
また、設備に限った話ではありませんが、長期的に使用する商品の場合は販売後のサービスについても考慮する必要があるため、販売先が近いと商売のやりやすさがあります。
技術サービス契約が可能
また、関係が深くなると購入した設備以外の仕事を受け持つこともできます。例えば、技術力を生かして、他社設備のメンテナンス業務や技術サポート業務を受け持つことも可能になります。生産技術者にとっても、近郊に設備の面倒を見てくれる専門家がいることは大きなメリットになります。
量産開始後のリスク回避が可能
製造業は供給責任があります。BtoBのビジネスでTier1,Tier2に位置すると、顧客企業に製品を供給し続ける義務が発生します。長期的な売り上げ確保できるという点で事業を安定させるメリットもありますが、一方で大きな供給責任が発生します。
顧客のライン停止が発生する場合は、その損害はかなり高額なものとなります。製品群にもよりますが、1日の生産停止で数千万~数億円を請求される場合もあります。
生産ラインの設備1台に問題が起きただけでも生産継続はできなくなります。そういった点で近郊に設備の面倒を見てくれる設備メーカーが存在する ことは、心理的に大きな安心感になります。
設備メーカーが近くにあるデメリット
技術者のスキルが身に付きにくい
メリットが多い一方でデメリットになることもあります。
生産ラインの導入・維持受け持つ生産技術者からすれば、近郊に設備メーカ―がいることはありがたいのですが、人によっては楽をしてしまいます。
いつでも助けてくれる強力な見方がいることで、自分の能力開発を怠り、完全な依存体質になってしまう場合もあります。物事は本人たちのとらえ方次第で悪い方向にも作用するということです。
こうなってしまうと、技術者はただのサービスマンやスーパバイザ―としての役割しかできず、エンジニアではなくなってしまうのです。こういう「名ばかりの生産技術者」を私は大勢見てきました。
彼らにとっての仕事は「設備メーカーに電話をすること」です。問題を調査して原因を突き詰め解決策を練るという作業を怠り、原因調査からすべて設備メーカー担当者に丸投げです。これでは技術力が伸びるわけがありません。
依存体質の結果、高い設備を購入することになる
近くにあってサービスがよくなった結果、些細なことでも丸投げ状態が発生します。
この状況が続くと、設備メーカーにとってはたまったものではありません。本来の業務にあてるリソースが確保できないばかりか、問い合わせ対応や雑務対応に追われます。
当然ながら、設備メーカーの工数もタダではありません。雑務の頻度が多くなると、その人件費をどこかで回収しなくてはならなくなります。とはいえ、依頼する生産技術者はそんなことなど配慮することもなく、毎回タダでサポートしてもらえるとしか考えていません。
結果的に、設備メーカは次の設備にそれらの費用を載せて回収するしかないのです。つまり、無能な生産技術者は高い設備を買うことになるということです。これは生産技術者に限らず同じです。わけのわからない雑用ばかりを下請け企業に押し付けるような仕事のやり方をしていると、相手からも敬遠されますし、どこかでその費用を請求されることになります。
遠方の取引先へのサポート事例の紹介
設備メーカの規模拡大に伴い、自社拠点からではサービスしにくい場合も出てきます。
そういった場合に見られるのが、サービスマンを主要都市や主要顧客の近郊に配置する場合です。
例えば、数十台の単位で装置を納入した顧客が遠方にいる場合は、毎回遠方から出張していたのでは効率的ではありません。設備の利用者にとっても、設備メーカーからのサポート体制は設備を購入するときの判断基準になります。遠方の取引先よりも近くの取引先の方が、上述した「安心感」があるからです。特に技術力のない会社であれば、設備の面倒を見ることは大きな負荷になります。
そこで、ある程度の販売実績がある場合や、現地でのサービス業務が期待できる場合は現地にサービスマンを常駐させている場合があります。事務所を構えるわけではなく、自宅で仕事をしてもらい、顧客訪問時のみ出張してもらうという仕事のやり方です。
経営的な視点で見れば、現地でのサポートは事業拡大の布石になります。サービス業務が直接お金を生み出すわけではないのですが、顧客にとっては近くにサービスマンがいるというメリットは大きく、次の装置を発注しようという気になるからです。
特に、グローバルに事業を展開する会社にとっては、言葉、時差の点で現地にサポート体制があるかどうかというのは大きなメリットになります。日本の事例でいうと、制御機器大手のキーエンスは世界的にサービス拠点を構えていて、どこでも日本人が駐在しています。
おかげで現地の日系企業は安心してキーエンスの部品を使用することができます。
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