200912 格差の是正を主張する人が見過ごしている事実

今回は「格差の是正を主張する人が見落としている視点」というテーマで話をします。諸外国を見てきた中で、私は「日本は格差が極めて少ない国」と認識しています。それでもメディアや政治の世界では格差という表現をよく目にします。そこで今回は私が感じる気付きにくい格差とその是正について考えてみます。

日本の現役世代の所得の現状と生活最低水準

一般会社員の生涯所得は2~3億円といわれています。年収300万円の人が40年間勤続した場合では、生涯所得は1.2億円です。この金額が多いか少ないかは別として、日本では独身者で毎月10万円もあれば生活していくことは可能です。 つまり、最低限の可処分所得で年間120万円程度あれば生活自体は可能ということです。貯金は増えないかもしれませんが、毎月10万円分の労働をすることを考えればそこまでの負担にはならないはずです。
これが、「諸外国と比べて日本は格差が少ない」と私が感じる理由です。

90歳前後の高齢者の年金受給金額

一方で高齢者の中には年金だけで1億円以上受給している人もいます(60歳から毎月30万を30年間受給した場合の受給総額は1億800万円です)。現在では受給開始時期や金額は見直されていますが、過去の仕組みの恩恵を享受した高齢者は大勢存在します。

40年間の勤続期間で平均2~3億円を稼ぐ現役世代と比較して、現在90歳前後の高齢者は60歳からの30年間で仕事もしないで1億円も年金を受給しているのです。医療費や介護費用以外でお金を使うことなどほとんどないにもかかわらず・・・です。どれほどアンバランスなことをしてきたのかイメージできると思います。
そもそも年金制度は平均寿命が65歳程度を想定した社会保障制度です。90歳まで生きることを前提にした制度ではないのです。

ここまでで主張したい内容は、「日本では生活ハードルはそこまで高くはない」、「古い制度のおかげで大きな所得差があった」という2点です。

格差に関するメディアの報道と政治家の言論

世間で話題になるのは大体次のようなものです。

高齢者の存在を理解しつつも誰も世代間の格差については言及しません。特に政治家は60歳以上の人間が多く、自分(高齢者)が不利になるような発言や政策を進めようとはしません。

彼らの主張は「格差をなくして豊かな暮らしをしよう」というものです。「賃金アップ」を民間企業に期待している政治家もいます。派遣社員の待遇改善のため「同一労働、同一賃金」などという表現も近年取り上げられるようになりました。


政治家ならば、「期待」するのではなく法律で最低賃金を上げればよいのです。ところが彼らはそうしません。癒着している業界団体が同意しないからです。派遣労働の待遇改善を期待するのであれば、解雇規制(終身雇用制度)をなくせばよいのです。ところが彼らはそうしません。ずるい人たちです。


このように、まだまだひずみを形成している制度が多く存在しています。

気付きにくい格差の原因と具体的な対策

いくつか報道されない問題を取り上げてみます。

世代間格差

1つ目が世代間の格差です。
日本では現役世代約6600万人、60歳以上約3000万人という人口構成になっています。(2020年時点) 
上述の年金制度は賦課方式となっていて、自分が積み立てた金額と関係なく享受できる仕組みになっています。長生きすればするだけ得をする制度です。損をするのは現役世代です。すでにシステムが破綻していることから、現役世代の人たちは自分が収めた年金を将来受給できる保証はありません。(積み立て方式ではないので)

これが大きな世代間格差です。この仕組みをすぐにでも見直せばよいのですが、民主主義の欠点が露出します。高齢者層の比率が高いために、選挙では高齢者がの意見が通りやすいのです。自分たちが損をするような法案に投票する人などほとんどいません。結果的に日本全体が自滅していきます。
いっそのこと60歳以上の高齢者には選挙権を与えないようにしてしまえばよいのでは?と考えています。過激な主張かもしれませんが、未成年が選挙権を持たないように高齢者からも選挙権を取り上げてしまうのです。社会を動かす現役世代のみで政治家を選出すれば現役世代の意見が通りやすく、政治家も現役世代中心の政策に力を入れるはずです。
※高齢者を無視すればいいという主張をするつもりはありません。人口構成がいびつな現代では一時的にでもそういった方法を採用しないと社会がよくならないのです。

若者への雇用格差

2つ目が雇用格差です。
別記事でも記載していますが、日本は解雇規制が強く存在しています。正社員として雇用すると本人が辞職する場合を除いて解雇が簡単にできません。この制度を自慢している政治家もいますが、私はこの制度は現代において完全に悪習だと考えています。
過去に一定の効果があった時期もあったかもしれませんが、会社寿命が短くなってきた現代では、定年まで従業員の雇用を保証するという制度はナンセンスです。

この悪習の結果、派遣労働という新しいひずみができました。さらに、年配社員が会社に居座ることで若者への雇用機会が生まれないのです。(関連記事
会社側の立場で考えれば、柔軟に雇用調整できる派遣社員で短期的な業務量の調整をすることは当たり前です。簡単に固定費を上げるわけにもいかないので、欠員が出るまで新規採用もできません。一方で終身雇用制度を利用して中年社員は社内に居座ります。この考えはどの会社でも同じです。転職の採用ハードルがどんどん高くなるため転職もしずらくなり、さらに社内に居座る傾向が強くなるのです。

これは若者に対しての大きな雇用格差だと考えています。 この問題をなくすためには終身雇用制度をなくし、解雇規制を廃止すべきなのです。海外から見た日本の会社員制度は異常です(英語では日本の雇用制度をlife time commitmentと表現されています)。 雇用格差をなくすためにも、会社の競争力をつけるためにも人員整理を可能にすべきです。

選択の自由を与えない国民健康保険

最近、この国民全員参加型の保険制度に疑問を持つようになりました。
国が貧しく、衛生環境の劣悪で、医療技術も十分でなかった昔にはありがたい仕組みでした。
ところが、豊かになった現代では飢えや戦争で死ぬ人よりも、肥満や糖尿病などの生活習慣病で死ぬ人の方が多くなったといわれています。深刻な疾病に悩まされている人は少数派なのです。

国民健康保険制度の仕組みにより、所得の約1割程度の保険料を徴収されます。年収300万円の人は約30万円の保険料を支払うことになります。この保険料は医療業界や高齢者医療、国民保険の運営機関、そしてごくわずかな現役世代の疾病患者の役に立つことになります。
現役世代で病院のお世話になる人はほとんどいないので、実質税金と同じ扱いです。医療保険に加入したい人にとってはメリットがあることは事実です。所得の低い人にとっては負担額が少なく済むからです。

しかし、よくよく考えるとほとんどの人は年を取るまで病院のお世話になることなどないはずです。年収300万円の人が20歳から50歳までで拠出する金額は900万円(30万円×30年)です。源泉徴収方式なので、自分の負担額をなかなか意識する機会はないのですが、「塵も積もれば方式」で長年の徴収は大きな金額になります。 自由加入にして希望者だけ加入するようにした方がよいように思えます。ただでさえ若者は賃金や雇用の面で不利な立場にあるのです。
※国家の保険制度を持たない国は世の中にたくさんあります。


国民健康保険制度の実態は高齢者への医療費拠出になっています。厚生労働省の社会保障費の実態を見れば、近年の増加率が明らかです。国民の医療費負担率が2割から3割に増えたように、すでに国民健康保険制度もひずんでいるのです。


まとめ

最後にまとめます。

  • 日本では生活ハードルはそこまで高くはないが、所得格差が議論されている
  • ※ところが構造的な問題については言及・対策されていない
  • 世代間で大きな格差がある(選挙、雇用、年金など)
  • 終身雇用制度のため、若者への雇用が開かれない
  • 国民健康保険は実質税金として機能している部分が大きい

最初は機能していた仕組みだったのかもしれませんが、現代ではたくさんのひずみを発生させています。この制度を変えようにも既得権を享受している集団からの大きな反対を受けて変わりそうにもありません。結果的に日本全体が疲弊するという構造です。

過去20年くらいの日本の社会情勢と諸外国の状況を見たうえでの個人的な判断ですが、おそらく日本はそう簡単に変わりません。これまでも変われなかったように、これからも数十年の単位で変わりそうにありません。 国や会社に依存するのではなく、個人で人生の戦略を立てていくしかないのです。会社は倒産するかもしれないし、解雇されるかもしれません。政府は徴税を増やしていきます(そしてたくさんの無駄遣いをします)。

最悪の事態は日本の債務不履行です。すでに先進国の中ではありえない借金を抱えています(GDPの200%以上です)。日本が債務不履行になった場合は、日本円の価値が暴落し全国民が貧しくなります。日本円で保有している資産(貯金など)は大きく減損します。
改革できない政治家および改革をさせない構造(民主主義のひずみ)の結果、もたれあい社会の将来にたいしては悲観的にならざるをえません。

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