211118 中国政府の優れた戦略

他国との比較で日本の政策を客観視すると、世界の中での日本の位置を客観視することができたりします。今回は優れていると思う中国政府の事例を取り上げてみます。 日本政府は国内でも効果的な政策を実施できていないので、国際的な活動において効果的な活動などできるはずがありません。一方で中国は国際的な活動を着実に進めていて、結果だけを見ると優れています。
個人的には中国に住みたいと思いませんし、中国政府の政策に賛同するものでもありません。

デジタル人民元導入によるドル依存の脱却

中国は自国通貨を国際通貨に押し上げようとしています。
経済面で見れば、中国は米国と並び立つ2大大国の地位を既に確立していますが、通貨・金融分野に目を転じると中国は米国に大きく遅れを取っています。この先も続く米国との覇権争いで中国の大きな弱点となっているため、中国にとってそれは必ず克服しなければならない課題で、デジタル人民元の発行を急いでいます。

現在、ドルが国際的な基軸通貨になっていて、世界では国境を超えた資金決済の約4割はドルで行われているといわれています。国際間のドル決済の大半にSWIFTのネットワークが用いられる結果、米国当局は世界の資金決済や資金の流れに関する相当部分の情報を握っています。これは中国にとって大きな脅威です。
※SWIFTは銀行間の国際金融取引に利用されるネットワークを提供する組織

それを象徴する事例が2020年の香港情勢に関する米中のやりとりです。

2020年の中国の全人代で、香港市民の基本的人権に制限を加える国家安全法を導入する方針が採択され、香港の一国二制度の形骸化は決定的なものとなりました。 香港情勢を巡る米国の制裁措置に関連して、米国が中国香港の金融機関に対してドル調達の制限を交渉ネタとして利用し、中国政府を刺激しました。これは米国にとって有効な策であり、一方中国にとっては最大の弱みです。
HSBC などの銀行が米国の制裁対象に指定され、ドルの調達に支障が生じれば香港の通貨制度が不安定になる可能性が生じる。そうなれば、国際決済業務が滞り、中国の経済活動が甚大な被害を受けるというロジックです。


ドル建てで代金を支払う輸入業者は、通常銀行を通じてドルを調達します。しかし、金融市場が混乱して銀行が十分なドルの調達を行えなくなることが予想されると、ドルでの支払いができなくなるリスクに備えるため輸入業者は輸入を一時的に見合わせます。 その際、重要な原材料の輸入が止まると、国内の生産活動に甚大な影響が及び、ドルの調達が困難になればグローバルサプライチェーンにある各国での生産活動に甚大な打撃が及ぶというわけです。

中国政府は2020年からデジタル人民元の試行テストを一部の都市で実施しています。デジタル人民元のアプリをスマートフォンにインストールして、そこに電話番号を打ち込むと登録が完了して個人用デジタルウォレットが作成され、このウォレットにデジタル人民元200元が振り込まれたようです。テスト実施都市では期間中、スーパーや飲食店ガソリンスタンドなどでデジタル人民元が利用されたようです。

また、2015年に中国が導入したCIPS(国際銀行間決済システム)には、2020年7月時点で97の国地域の金融機関が参加していて、ロシアなどの米国と敵対関係にある国を含め、米国からの経済制裁を恐れる国も多く参加しています。

一帯一路による軍事・経済政策

中国沿岸部へ進出した海外企業による生産の拡大は、中国に輸出主導型の高成長の持続をもたらし、中国は世界の工場の地位を確立した。中国に進出した海外企業から技術を吸収し、中国企業の技術力も高まっていった。
一帯一路構想は今後も他国からの干渉を受けずに、中国に天然資源を運びいれるための海路の確保を意図したものと考えられています。そして、それは海路の安全を確保するための軍事力を強化という目的とも一体になっていて、米国は強く警戒しています。 参加国の湾開発に融資をすることで経済的なメリットを享受しようとしていて、参加国が融資を返済できなくなれば、港を中国国有企業に譲渡するような契約になっています。

また、一帯一路構想を通じて中国政府が目指していることの一つが、国内での過剰生産能力の緩和ともいわれています。リーマンショック後に実施した4兆元の大規模景気対策などは鉄鋼、石炭、コンクリートなどの分野で過剰な投資と過剰な生産能力を生み出してしまった。そこで、海外の一帯一路地域でのインフラ投資を促し、過剰となった設備や鉄鋼コンクリート等の建設資材など投資向けの輸出を拡大することで、国内の過剰生産能力の緩和を図っている側面も考えられています。

また、中国は国際原油取引を人民元によって行うペトロユアン構想も進めている。世界的な原油の取引はドル建てが支配的だがそれに対抗して中国は2018年、上海で人民元建ての原油先物市場を開設した。そこではシノペックと傘下のトレーディング会社が主に取引に参加している。さらにイランやロシアとの間では、原油の取引を人民元建てにするように語りかけているとされる。WTI 原油先物取引高の規模は小さいものの、取引高は順調に増加している。



これらの事例からもわかるように、中国政府は世界の覇権を狙っています。徐々にその影響力が効果を発揮しています。一方で日本政府は国内問題ばかりに気を取られていて、国として世界のなかでどう発展していこうとしているのか方針もありません。新しいものが国内から生まれる様子もなく、古いものを守ろうとする保守派的思想が国を衰退させています。



※関連記事)安いニッポン(日本の現状を正しく把握)
※関連記事)中国と日本における学生の競争環境の違いと認識すべき事実
※関連記事)日本が変だと思う理由(所得税、法人税、成長戦略)

コメント・質問を投稿