200117 設備投資を下げるには技術力が必要【仕事の生産性も上がる】

今回は「設備投資を下げるには技術力が必要」というテーマで話をします。 生産技術エンジニアをやっていると設備投資をすることが多いのですが、たいした設備でもないのに大金を投資しようとする人が大勢いました。自分が関わっていた案件であれば、価格や仕様を抑制していました。自分が担当していない案件では、出来上がった設備を見て無駄だなと思っていました。

1.ポイントとなる設備投資の考え方(技術力がすべてを決める)

私はプロジェクトリーダ―をしていた当時は全プロジェクト合計して30億円程度の投資を経験しました。何本も生産ラインを導入すると徐々に要領がわかってきます。その当時の私の考え方をいくつか紹介します。

ポイントは次の3点です。
  • 設備価格抑えることができないのはエンジニアとして2流
  • 決められた予算内で投資を行い、余った予算を別の改善活動に回す
  • 可能な限りシンプルな構造でリスクを減らす


設備価格を抑えることができないのはエンジニアとして2流

設備の価格は上げようと思えば青天井です。精度の良い機器を採用したり、自動化率を増やせば価格はどんどん高くなります。ところが、高い設備が必ずしも良い設備とは限りません。 どこの生産ラインでも世の中に1台しかない特注品の設備となります。仕様検討の甘い設備であれば、使い勝手が悪かったり、他設備との統一感がなかったり、稼働率が期待した通りにならなかったりします。

いかに不要な仕様を落として、必要最低限の仕様で価格を抑えた設備にするかという点がエンジニアの技術力の試される部分です。設備価格が安くて、安定稼働して、メンテナンス費用・手間がかからない設備が理想です

言うまでもありませんが、これを実現するためには高い技術力が必要となります。設備の構成部品の価格を把握し、その設備へ要求される精度と選定する機器の精度をよく理解し、設備動作全体での動作フローや発生しうる問題を想定しなくてはなりません。また、運用面を考慮すると、他設備と使用する機器やソフト仕様もある程度統一しておく必要があります。つまり、ライン全体を俯瞰しながら、各設備の詳細を詰めるというマクロとミクロの面で検討しなくてはなりません。



決められた予算内で投資を行い、余った予算を別の改善活動に回す

どこの会社でも新規生産ラインの設備投資予算は決まっています。優秀なエンジニアであれば予算内に全て納めることができます。ところが、そうでないエンジニアの場合は予算を食いつぶして追加予算を申請することになります。また、予算をオーバーしないまでも終盤で残り予算に余裕がなくなると、お金に縛られて仕事がやりにくくなります。こうならないためにも、予算申請時に精度の高い価格想定を行うこと、想定外の支出に備えてどこかに予備予算を設けておくことです。

役職が上がるにつれ、こういったマネージメントの仕事が増えてきます。生産技術エンジニアの本来の仕事は技術案件です。うまくこなせる人はよいのですが、そうでない人はお金のやり取りや追加予算の申請などに時間を奪われることで、本来の生産技術の仕事が進まなくなります。負のスパイラルです。

効率的に業務をこなすには、設備投資を可能な限り抑えて予算に余裕を持たせます。2000万円の設備予算であれば、1700万円程度で購入できるように設備仕様を最適化します。ライン全体で投資予算を大きく下回ることができれば、それらを別の改善活動に投資することができます。

例えば、人がやっていた作業をロボットに置き換えたり、改善したい設備の部分的な改造をしたりといった具合です。こういう改善活動にお金を回すことができるようになると正のスパイラルが生まれます。



可能な限りシンプルな構造でリスクを減らす(※高い技術力必要)

複雑な構造はメカ的な調整や制御が煩雑になります。位置決めの基準面がない場合や他人が見てもわかりにくいプログラムなどは運用面で大きなリスクになります。

特に近年は自動化が進んでいて、搬送部は多軸ロボットや3軸アクチュエータなどがよくみられます。使い勝手は良いのですが、制御は複雑になり、価格も決して安くはなりません。取引先もそういった自動化構造にはリスクをとって、多少高めの見積もりを提示してきます。

どうしても必要な部分はそういった構造を採用すればよいと思いますが、必要でない部分は安価な代替方法を利用するべきです。「構造が複雑=技術力が高い」と考えがちですが、そうではなく「技術力が高いからこそ、シンプルな構造を採用できる」のです。

2.投資効果の悪い設備投資の事例

いくつか悪い事例を紹介します。
設備投資の良し悪しを決めるには少なからず経営的な視点が必要になります。 予算が潤沢にある会社や財務状況に恵まれている会社では、この投資感覚は磨けないかもしれません。 「必要だから購入する」という感覚を捨てて、「投資に見合っているかどうか」という視点で判断します。

悪い事例紹介1)金属部品の洗浄機

以前、洗浄機を購入したことがあります。価格は1400万円程度でした。
これは防錆処理された金属部品を洗浄して防錆油を除去するというためだけの設備です。
設備の仕事は、トレーに入った金属部品を洗浄液に浸して洗浄するだけです。洗浄-->すすぎ-->乾燥という工程をゴンドラで送っていくだけの設備です。

そもそも、その金属部品サプライヤが遠方でなければ不要な設備でした。海外の取引先であったために輸送期間が長く、金属部品の防錆処理をしないといけないだけでした。同一国内に部品サプライヤがあれば輸送期間もそれほど長くならないので防錆処理自体が不要だったのです。つまり、部品価格を下げるために海外の取引先利用したおかげで、必要になった設備でした。


こんな付加価値を持たない設備でも、担当者から私のところに承認依頼がきたときはなんと4000万円の見積もりでした。もともと予算に組まれていないうえに、付加価値のない設備に4000万円も投資するほどの余裕はありませんでした。なので、もちろん却下です。

結局、仕様を詰めて最終的には1400万円程度まで下がりました。それでも高いという感覚でしたが、サイクルタイム要求10秒、設備サイズ、他社見積もりなどを考慮してその値段で決着しました。

悪い事例紹介2)溶剤の塗布機

手のひらサイズの製品に溶剤を塗布するだけの設備ですが、横幅1500mmはあろうかという大きな設備を購入しているエンジニアがいました。これは私が全く関与していない案件でした。装置動作は平面内で軌跡を描いて塗布するというものでした。

これに対して、設備の概要は次のようなものでした。
・多関節ロボット(ステーション間の搬送)
・カメラ(塗布判定用)
・ノズルの自動補正機能

ただの塗布機でしたが、2000万円程度の投資でした。

もったいない投資だなという印象でした。ディスペンサーと圧送タンクだけであれば、100万円程度です。塗布動作の部分を工夫すれば、もっと簡単な構造で投資を抑えられたはずです。

また、完全にその製品のその工程にしか利用できない構造になっていて、将来的な汎用性もありません。将来的にその設備を他の機種に転用できる可能性はなく、せいぜい部品取りくらいしかできません。 狭い装置内に多関節ロボットを配置し制御を複雑にして、やっている仕事の割には設備の価格が高いという悪い事例です。



3.まとめ

今回は技術案件というよりもライン構想・マネージメント寄りの話をしました。
ただ設備を納期に間に合わせればいい」という仕事のやり方よりも高いレベルの仕事をするためのアイデアとして受け取ってもらえればと考えています。

  • 可能な限りシンプルでお金のかからない構造を採用すること
  • 他設備と可能な限り仕様を統一すること
  • 将来的な設備転用を考慮すること(汎用性を持たせておくこと)
  • 設備がやっている仕事に見合った投資になっていること
  • 生産ラインの投資予算に対して、余裕があるかどうか考慮すること

これらの点に注意しながら仕事を進めてみてください。

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