200224 レベルの低い生産技術者の残念な設備仕様と設備導入後の対応

今回は「レベルの低い生産技術者の残念な設備仕様と設備導入後の対応」というテーマで話をします。
2010年代に入ってから製造業界で自動化、省人化が進んでいます。中国での人件費の上昇や産業用ロボット導入の障壁が下がってきていることが背景にあります。おかげで、生産ラインは従来の単体設備ではなく複合的な自動設備が導入されています。設備が自動化される一方で、残念な設備仕様を見かけることもあります。
私が見てきた失敗事例と注意するべきポイントについて、紹介したいと思います。

【目次】


残念な設備仕様の事例紹介

残念な事例で多いのが、自動化した組み立て装置です。
従来の単体設備は、部品を投入して設備内で組み立てを行うというものでした。
一方、自動機は設備内で組み立て及び検査を行うというものです。

例)溶剤を塗布してカメラで外観検査をする
例)ネジ締めをしてネジの高さを測定する
例)カシメをしてカメラで外観検査をする

簡単にいえば、ただ動作を連結しただけです。

これまで別でやっていた検査工程を組み立て装置内に入れてしまい、一緒にやってしまおうというものです。
自動機は改造や転用がしにくいので、導入前にリスク検討を十分に行う必要があります。ところが、この仕様検討が不十分としか思えないような事例が多いのです。ほとんどのエンジニアはそういった仕様検討をしたつもりになっているのですが、経験者から見れば不十分な部分がたくさんあります。

残念な理由(再投入という設備仕様が漏れている)

1つ事例を紹介します。
設備チョコ停で排出された保留品に対してのやり取りです。

製造部門:
「カメラ判定が不安定でNG排出された保留品は品質上問題なさそうだけど、どうにかならないの?」

生産技術エンジニア:
「これはNGです。廃却です。」
「検査データが残らないのでトレーサビリティが取れないのでダメです。」

製造部門:
「でも、品質は問題ないんだろ?」


製品品質上は全く問題がない製品でも、「データが残らない」という理由だけで廃却しているのです。ありえません。
経営的視点で考えると「無駄」以外の何物でもありません。
自分たちの仕事(量産設備)の完成度が悪く、不良を作っているにもかかわらず、平気で廃却するという判断をするのです。
品質に問題ないのでそのまま使用すればよいのですが、通常工程から逸脱したものを採用して、何かあった時の責任をとりたくないので、ほとんどの生産技術エンジニアはやりません。
客観的に判断して、この状況って変ですよね?

自分たちで準備した仕様どおりの設備を使うと、変なチョコ停が発生して、品質的に問題がない製品を不良としているのです。

新設備導入後に、こういったしょうもない課題を6ヶ月~1年ほど引きずっている場合が頻繁にあります。
本来は、もっと本質的な問題にリソースを集中するべきですが。。。

今回の課題点と自動化設備で採用すべき設備仕様

ここでの課題点を整理すると次のようになります。

  1. 複合工程設備のチョコ停を想定できていない
  2. 通常の自動運転しか準備しておらず、チョコ停が起きた時の救済方法が決まっていない
  3. 初期の完成度はどうしても低くなるが、それを想定できていない

それでは1つずつ見ていきます。

1.複合設備のチョコ停を想定できていない

設備の構造が複雑になればなるほど、設備の動作は不安定になります。自動化をやればやるほど設備調整が大変になるということです。経験者であれば、可能な限りシンプルな構造を採用して、このリスクを下げることができます。
ところが、現場を知らないエンジニアや検討の甘いエンジニアはそういった調整の苦労を理解していません。
そんな人達が準備した設備仕様であれば、無駄に高い機器が使われていたり、調整しにくい機構になっていたりすることがあります。

2.再投入という設備仕様が漏れている

検査装置と違い、組立工程は再投入ということができません。
検査工程は投入前後の製品形状が同じですが、組立工程は投入前後で製品形状が変わります。
単体機(組み立て動作のみ)であれば想定しなくてよかった課題でも、複合機(検査工程含む)になると違った課題が出てきます。

その1つが、複合機内部でのチョコ停の救済です。
複合機内で検査のみ(組み立て動作はしない)を行うモードを準備しておかなくてはならないということです。簡単に説明すると、組立終了した状態の製品を途中から投入して検査だけを行うモードです。ある程度、自動に近いモードで行い、自動モードと同じような検査データを残せるソフト仕様にしておないと、チョコ停多発時に身動きが取れなくなります。

初期の完成度を高めておけば不要なソフト仕様と思うかもしれませんが、使うかどうかは別にして初期の時点では想定しておくことです。後になってソフトウェアを追加改造すると、最初から盛り込んでおくよりもはるかに高額な費用と工数がかかるからです。

余談ですが、量産開始後にこういった残務の対応でメーカー生産技術部責任者と設備製作会社責任者で争いが起きています。
生産技術部責任者の主張は、「設備の完成度が悪い」。設備製作会社責任者の主張は、「設備仕様が悪い」。
どちらが正しいという議論をするつもりはありませんが、生産技術エンジニアであれば、取引先の選定を含めて、8割くらいは自責でとらえるべきです。


3.初期の設備完成度の低さを想定できていない

類似設備の導入経験があればわかるのですが、起こりうるチョコ停というものはある程度想定可能です。
(※まったく新しい機構を採用する場合は、頭の中で想定するしかありません)

カメラ、レーザー変位計、反射型のセンサ、DMCリーダーなどは大量の部品を流して合わせ込む必要があります。少量のサンプルでの動作確認では不十分です。経験者は、この想定ができるのですが、経験が浅いエンジニアはそこまで想定できていません。従って、チョコ停が発生した時の現品の処理方法などは想定できないわけです。

まとめ

最後にまとめます。
組立工程で自動機を導入する場合は、チョコ停が発生した時の後処理をよく想定しておく必要があります。検査工程と違って、そのまま再投入できません。

また、自動機の設備仕様を検討する上で可能な限りシンプルな構造を採用し、チョコ停リスクや調整リスクを減らすことです。何でもかんでも自動化すればよい、検査をすればよい、というものではありません。あまり仕様を盛り込みすぎると、結果的に生産性を落とす方向になります。


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