210221 取引先の問題だと認識していたことが、実は自社の問題だったときの話

今回は「取引先の問題だと認識していたことが、実は自社の問題だったときの話」というテーマで話をします。誰でも「自分は悪くない」と思いがちですが、ふたを開けてみると「実は自分が悪かった」ということがあります。 技術の世界では、問題が解決するまで終わりません。やっと終わりが見えたと思うと、「実は自分が悪かった」というバツの悪い結果になることもあります。今回はそんな事例を紹介します。

思い込みによる他社への責任転嫁

以前勤めていた会社の話です。
取引先から納入されたリレーという部品の接点不良が原因で、社内生産ラインで組み立てた最終製品の特性不良が起きてました。生産していた製品は自動車部品で、電気回路切り替えの目的でリレーを使用していました。

その機種の生産工程では、リレーの端子と銅端子を溶接で接合するという工程があったのですが、溶接品質がなかなか安定しなかったため、複数ある端子を自動で溶接しても、部分的に手直しが必要でした。良品率が7割ぐらいで、10台投入すれば3台は手直しするような工程でした。

そんな製品を量産開始してから3年が経ったくらいでした。最終製品側での特性異常の真因がついにわかりました。もともとリレー単体での接点不良と考えられていましたが、実はそうではありませんでした。繰り返しの溶接が原因だったのです。連続的な溶接熱が原因でリレー内部の接点が損傷し、接触が悪くなっていたということがわかったのです。

同僚は取引先の部品品質を疑っていましたが、実際は自分達(当時の私の勤務先)の生産工程が問題を引き起こしていたという結論だったのです。

気づけなかった社内工程の問題点

製品設計の問題もあり、量産初期の時点から溶接のリワークも発生していました。同じくリレーが原因と思われる特性不良も発生していました。当初は「溶接不良が原因でリレーの接点不良を引き起こしている」とは考えておらず、最終的な製品の特性検査の結果、リレーが疑わしいと推測されていました。

(単価の高い)最終状態で大量に製品を廃却するわけにもいかないので、 リレー単体での選別も行なっていました。リレー単体状態で、実際の使用環境を想定して大電流を流した後に接点の抵抗値を確認するという方法でした。リレーを切り替えて接点の導通を確認しておけば、大丈夫だろうという推測です。そのためにわざわざ単体での検査装置も導入し、専属で1名の作業員を検査要因に当てていました。(もちろん初期の時点ではそんな設備や工数は見込んでいなかったので、量産後に追加になった投資です)

そんな状態を数年続けていたある時、ちょっとしたことから、繰り返し溶接と リレーの接点不良が発覚しました。リレーの内部を分解して確認していると接点部分が溶けていたのです。この溶けを発生させてるのは、紛れもなく繰り返し溶接による熱でした。

これまでの出荷品の品質は大丈夫か?

何ともお粗末な話ですが、これが事実でした。
自社の製品を痛めつけるような行為をしていたのは自分達だったのです。製品に負荷をかけるようなことをやっていたのでこれまでの出荷品の品質も 疑わしくなります。耐久性試験をしたり、ヒートサイクルにかけた場合に十分な信頼性があるかどうかは、不明でした。

幸いにも、既に市場に出回ってる製品の実績(市場で問題が起きていないという実績)が品質を保証してくれていたので、大きな問題になることはありませんでしたが。。。 自動車業界では高いレベルの品質が要求されていて、自分が乗っている自動車にそんな疑わしい部品が搭載されているとすれば大きな不安要素です。

※ちなみに、この溶接工程は量産初期から5年経っても安定することはありませんでした。
製品開発者が設計した端子形状と溶接手法自体が問題だったのです。設備仕様や現場の改善で一部改善できた部分はありますが、上流工程での失敗は後工程に大きくのしかかってきます。 特に自動車業界のように製品寿命や生産期間が長い製品は、その影響ををもろに受けます。

事実を客観的に分析し相手の立場も考えよう

取引先に問題があると思っていた場合でも、実は冤罪だったということです。同じようなやり取りは量産部品の仕入先に対しても、量産設備のメーカーに対してもありました。 自社の問題に対して十分な調査をしないで、他社に責任を押しつける残念な光景です。意外と内部事情はそんなものです。

この話の教訓は、自分の主張の妥当性をある程度担保しておかないと自分の主張が正しくないと判明した時点で、大きなしっぺ返しを受けるということです。 今回の場合で言えば、数年間にわたる取引先へのクレーム、それにかかる工数などです。初期の段階で、ある程度正しい事実に基づいて協議しておかないと、かかった工数や損害を全て請求される可能性があります。 また、相手からの信頼を損ないます。

立場や思い込みを利用して、いい加減で自分に都合のよい仕事のやり方をした場合、事実が明らかになったときの状況を想像してみてください。メディアの報道を見てわかる通り、こういう仕事のやり方が日本に蔓延しています。

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