211111 日本の会社員が勉強しない要因分析
今回は会社員が勉強しない理由を体系的に分析・整理してみます。これまでにも何度かこのサイトで取り上げてきましたが、それを少しまとめてみます。
FTA(Fault Tree Analysis)分析は下記のようになります。勉強しない会社員の方はいずれかの要因が該当するのではないでしょうか。
勉強しない要因1)労働環境
一つ目が労働環境です。
日本は終身雇用を前提とした雇用環境が成立していて、大企業では解雇が非常に難しく、形式的には社内公募で退職希望者を募るという方法がとられています。一方でアメリカなどの国では指名解雇が一般的です。パフォーマンスの上がらない従業員(場合によっては事業部全体)を解雇します。そのため、アメリカの従業員は長期的な安定よりも自分のスキルアップ・キャリアアップに尽力し、自分の成長のために職場を変えることは一般的です。
日本の終身雇用は雇用維持という点ではありがたい仕組みですが、一方で日本の終身雇用は Lifetime commitment(一生の誓い)と訳されるように、異常な誓約になっています。
従業員の成長やモチベーションの点で考えると、必ずしも終身雇用がポジティブな側面だけを提供してわけではなく、負の側面の方が大きくなっていることも事実です。
長時間労働も勉強を妨げる要因です。勉強しようと思っていても、会社に時間を奪われてしまい、仕事をするか自宅で寝ているかという選択肢しかない。こんな状況ではそもそも勉強する時間がないので学習することができません。
これも皮肉な話ですが、日本GDP は 20年間増えていません。マクロな視点で見れば無駄な仕事をしている会社が多いということです。にもかかわらず、会社での時間的な拘束は減っていないのです。おかしな話です。
勉強しない要因2)人事制度
2つ目の要因は人事制度です。
日本の人事制度(主に一般職レベル)では、生産性が高い人よりも生産性が低い人の給料が増えるというシステムになっています。仕事ができずに遅くまで残って仕事をしているふりをしている人よりも、仕事を終えて早く帰る人の給料が安いというひずみを生んでいます。日本社会は不要な残業が慢性化しています。
急いで仕事を終えて早く帰ろうとすると、余計な仕事が回ってくる可能性や仕事を無理矢理付き合わされるという「もたれ合いの文化」があることも事実です。「他人を全て無視しろ」というわけではないですが、この辺りのマネージメントがうまくできていないのは事実です。他人の目を気にして残業をする人がいるのも日本社会の特徴です。
日本の雇用がジョブ型ではなくメンバーシップ型と表現され、仕事がなくても会社に行って時間を潰さないといけない。あるいは仕事がなくなっても解雇ができないので無理やり仕事を作るといった歪みが生まれます。変な仕事をアサインされるなら、生産性を高めて仕事を早く終わらそうというモチベーションは生まれません。
個人的には、無理やり雇用を維持するのではなくて、再就職できるように教育して新しい産業(たとえ社外であっても)に人材を投入すべきだと考えています。残念ながら日本社会はそうはなっていません。結果として会社にしがみつく人が多い印象です。
勉強しない要因3)周辺環境
3つ目の要因は周辺環境です。
まわりに勉強している人がいないので自分も勉強しなくて大丈夫という意識があります。実際、日本の会社員は勉強する人がほとんどいないというアンケート結果もあります。低いレベルの争いというか、「自分の周辺が当たり前だ」という間違った認識を取り除くことができないようです。
親世代も影響を与えています。70年代、80年代を生きた人は成功体験を持っているので、その成功体験で物事を語ります。現代は周辺環境が全く違うのですが、親世代や祖父世代の吹聴を聞いて育った人たちはデフォルトでその認識を持ってしまいます。
日本が島国で、単一民族国家で、ダイバーシティがなく、日本語という特殊な言語で他国から閉ざされていることも一つの要因だと考えています。結果的に独自の文化を形成していて、日本の「常識」と他国の「常識」が大きく違うことに気づけない人が多いのです。(参照:日本の変な部分)
勉強しない要因4)モチベーション
4つ目の要因はモチベーションです。
そもそも勉強したいと思わない。学ぶこと自体を楽しいと考えていない。新しいことに興味がない。向上心がない。自分にはどうせできない。そう考えている人たちに無理やり勉強をさせるのは無理です。
また、自分の時間を他のこと(例えば趣味や家族との時間など)に使いたい人はそうすべきです。その方が本人の人生は豊かになって満足感を得られるからです。
職場でスキルアップを必要とされていない場合は勉強しようというインセンティブ になりません。上述した年功序列の仕組みも勉強するモチベーションを下げる要因になっています。
自分の会社は倒産や解雇がないと思っている人も多い印象です。客観的な事実に基づく判断ではなく、自分の期待をなんとなく持っている人がいます。自社の財務状況を把握しているわけでもなく、業界の動向を正しく把握できていないにも関わらず、自分の会社は大丈夫と考えています。だから勉強しなくても一生大丈夫という考えです。
(参照:日本のサラリーマンの危機感が薄い理由)
勉強しなくても一生食っていけると錯覚している人もいます。これも古い慣習の悪い遺産になっています。
勉強しない要因5)その他(心理的要因)
行動経済学の考えではリスクを避けて現状維持を好む傾向あります。60%の成功確率と40%の失敗確率の場合、成功する確率の方が高いのですが、成功の恩恵よりも失敗のリスクを重視してしまうため、合理的な判断ができなくなってしまうのです。
現状のままでいいという「現状バイアス」は、取締役レベルの経営判断でもしばしばみられます。埋没費用を気にして縮小・撤退することができなかったり、過去の意思決定との矛盾を嫌ったりします。
自分が成長した将来像と投資する苦労を天秤にかけて、現状のままで満足してしまうのです。ダイエットを決意した人が3日坊主で終わるのと同じです。
まとめ(個人的な提案)
なかなか人の行動を変えることは難しいものです。「自分の状況はよい」と錯覚している人であっても、別の視点で見れば「まったく状況は良くない」のですが、本人が気づくしかありません。
現時点では日本は雇用が守られていて、大企業は「勝ち組」とされているかもしれません。ところが、大企業でつまらない仕事に従事していても専門性は伸びず、給料が増えるわけでもありません。人事制度や福利厚生は定期的に見直されます。今がよくても、将来もよい保証はありません。
日本全体でもGDPは30年間横ばいです。過去の有名企業でも業績は停滞しています。給料は増えませんが、社会保障費負担は増えるため、相対的に所得はさがっています。現時点では日本は長期デフレですが、インフレになれば相対的な給料価値はさらに下がります。(他の先進国ではインフレが一般的です)
そんな状況を考えると、社会がどう変化しても対応できるように、たくさんのことを学び、たくさんの種をまいておく方がよい気がします。
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